日本代表初招集のFE名古屋・佐土原遼 「嬉しいけど、悔しい」と語る止まらない向上心
「嬉しいけど、悔しい。複雑な気持ちでした」
初めて日本代表に召集されたファイティングイーグルス名古屋(以下、FE名古屋)佐土原遼。その口から発せられた言葉に虚をつかれた。
「GMから『日本代表のラージリストに載って、合宿に召集されたよ』と聞いた時は目標にしてきた場所なので、すごく嬉しかったんですけど…。メンバーを見てみたら、渡邊雄太選手、富樫勇樹選手、比江島慎選手、馬場雄大選手、河村勇輝選手などいつもの選手がいなかったので、ガッカリとまでは言わないですけど、試されているんだなという感じがすごくしました。アジアカップの出場が決まった状況での選考ですし、正式な日本代表にはなれていない気がして。嬉しいけど、悔しい。複雑な気持ちでした」
コメントを聞きながら、『佐土原選手らしいな』と思い直した。なぜなら、1年ほど前に取材した際、こんなことを話していたからだ。
「成長に限界はないので、何かをひとつ得たとしても、次にまた別のものが欲しくなるんです」
あくなき向上心を持つ彼の視線は、既に次の目標を捉えているのだろう。
地道な努力で辿り着いた日本代表の舞台
一方で、FE名古屋を率いる川辺泰三ヘッドコーチ(HC)は喜びを隠せない様子で、終始満面の笑顔だった。
「サド(佐土原)がどんどん成長した裏には彼の人間性がある。バスケットボールに、素直に、真摯に向き合っているし、本当に努力家。だから、最初は一番下からのチャレンジになるかもしれないけれど、今のような努力を続けていれば、どんな組織に行っても真ん中より上に行ける選手。そういう意味でも、まずは日本代表に入ったことがすごく大事。チャンスを与えてもらえたら、代表でも必ず真ん中以上の選手になれると思う」
指揮官が語ったように、佐土原の成長を支えているのはたゆまぬ努力だ。「ぐーたらしているのが嫌なタイプで、家にいるとムズムズしてくる」と笑う佐土原は、チーム練習が午後からであっても、午前中から体育館に来て、だいたいいつも一番遅くまで残っている。「僕は外国人と競えるフィジカルはあるので、その武器を尖らせながら、ドライブや3Pシュートを高確率で決められるように」とアシスタントコーチとともに練習を続けてきた。
5人制の日本代表は初選出だが、3×3の日本代表として「FIBA 3×3ワールドカップ2023」などに出場した経験があり、「海外の選手に対しても日本人選手を相手にしている時と変わらない感覚でプレーできた」という自信もある。
FE名古屋在籍2年目の今シーズン(2月2日時点)は全35試合に先発出場約30分プレー、平均12.0得点をマーク。25歳ながら日本人エースとしてチームを牽引している。佐土原自身も「今シーズンは波もなく、コンスタントに得点とリバウンドが取れている」と手応えを感じている。一歩ずつ階段を登り、満を持しての代表召集だ。気持ちが昂らないわけはない。
「今はポジティブに捉えていますよ。トムさん(ホーバスヘッドコーチ)のバスケを知ることはプラスですし、この先にはアジアカップ、ワールドカップの選考がある。今回はそこに食い込んでいくためのアピールの場ではあるので、2試合ともロスターに入って自分を表現したい」

©FE NAGOYA
「ここは通過点」。2番ポジションを争っていきたい
以前、佐土原は「日本代表の2番ポジション(SG)を狙っていきたい」と話していた。今シーズンのFE名古屋では4番(PF)ポジションで出場することが多いが、目標に変わりはないかをあらためて聞いてみた。
「変わらず、比江島選手や吉井(裕鷹)選手と2番ポジションを争っていきたいという気持ちがあります。4番もできて、2番、3番(SF)もできることは日本代表でもアドバンテージになると考えています。
自分の武器は、外国籍選手を含めてどんな相手にも粘り強く守れることやフィジカルにドライブできるところ。それに加えて、トムさんのバスケでは3Pシュートを求められると思います。最近の試合では3Pシュートの確率が良くありませんでしたが、どんな状況でも3Pシュートを打ち切るところも自分の持ち味だと思っています」
川辺HCも、「サドはフィジカルがあるので、多くのポジションを任せられるのは強みではあるが、日本代表の2番3番はよりアジリティ、フットワーク、ハードワークが求められてくる。さらにその中で3Pシュートを決められる選手にならないといけない。世界の2番、3番の選手につくために何が必要かを学んできてほしい」と期待を寄せる。

©FE NAGOYA
佐土原の目標は、ロサンゼルスオリンピック出場と海外挑戦。今回の日本代表入りは、本人も言う通り「通過点」に過ぎない。されど、未来につながる大きな一歩でもある。この通過点から、佐土原の、再び世界へ挑む日本のバスケの、新たな地図が描き出されていくはずだ。
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