稲垣敦AC「ACは自分が第一ではない仕事」インタビュー【無料記事】
今シーズンからブレックスのAC(アシスタントコーチ)を務める稲垣敦氏。ACとは、どのような仕事をして、どのようなスケジュールで動いているのか。知っているようで意外と知らないACの仕事内容と、仕事をする上での心構えなどを中心に話を聴いた。(なお、20日発行のSPRIDE29号にも稲垣ACのインタビューを掲載していますが、そちらは、現在のチーム状況や選手のサポートを中心に話を聴いているので、併せて読むとより理解が深まるかもしれません)
アイデアをプラスしていく仕事
―AC(アシスタントコーチ)の仕事の内容、職域を教えていただけますか。
基本的にはHC(ヘッドコーチ)のアシストとサポートです。戦術を考えるのはHCですが、それにプラスして「こういうのはどうですか?」と意見を上げます。意見を変えるのではなくて、「こういうのもありますが、どうですか?」と提案して、HCの頭の中に何かをプラスしていくことがACの仕事です。そうした提案は、HCと同じかもしれないし、違うかもしれませんが、違った時にはアイデアを少し頭の中に入れてもらえればいい、という感じです。
一方で、HCの考えを僕が理解して、選手に伝えなければいけません。HCが誰か選手の練習を見ている時に、ほかの選手から質問があれば、「じゃ、僕が聞こうか?」ということもあります。つまり、HCの仕事をやりやすいようにすることが僕の仕事でもありますね。
あとは、相手チームのスカウティングについても、堀部寿貴(スカウティングコーチ)一人では回らないので、それを分担しながらやったりもしています。
―ビデオ編集は、基本的には堀部さんが担当されているんですか。
全員でやっています。試合毎に担当を分けたり、竜三さん(安齋HC)もやっています。選手に観せないまでも、必要になった時のために、と。
―それは毎試合やっているものなのですか。
スカウティングは、相手チームの試合を何試合か観て、ビデオを編集します。自チームのスカウティングについては僕がやっています。選手に観せる用の映像は、僕と竜三さんが2人で作って観せたり。という感じで、全員がそれぞれの仕事を少しずつやっています。というのも、仮に誰かが欠けてもこのやり方ならカバーできるからです。
―ビデオ編集の際、ポイントとして観せたい部分に食い違いが出たりはしないのですか。
スカウティングのビデオは、「これでどうですか?」とか、「僕は、これを入れたいです」と、竜三さんの意見も聞いて、擦り合わせながらビデオを作っています。
最初の頃はそういう感じでやっていたんですけど、もうシーズンも半ばを過ぎたので、チームとして何がポイントなのかは僕も理解できているので、最近はビデオを作って竜三さんに観せようとすると、「それでいいよ」と任せてくれています。観ているポイント、作っているビデオのポイントが似てきているのだと思います。
―このチーム独自の仕事というのもあるのでしょうか。
ないと思います。ロサンゼルスクリッパーズのコーチたちから教えてもらったのですが、向こうの場合は人数が多いので専門職に分かれるんですね。HCがいて、ほぼHCと同じことをやるACとしてトップACがいます。そのほかに、第2ACとしてオフェンスコーディネーターというオフェンス専門のAC、第3や第4ACとしてディフェンスコーディネーターもいます。そのほかにもスキルなどのデベロップメント(育成)担当のACがいるなど、本当に細分化されています。そうやって多くの人数を割けるので、それぞれ専門だったり、選手を振り分けて、狭く深く見るのが海外のスタイルですね。
―稲垣ACの1週間の大まかなスケジュールを教えていただけますか。
僕は水曜試合担当です。土・日は堀部、水曜日は僕という形で分けてやっています。
土・日に試合があって、その試合の復習や数字出しは僕がその日のうちにやって、月曜日になったら次の試合のスカウティングを始めて、水曜日に試合がなければ、火曜日は自主練。自主練の時には、土・日のビデオを持って、選手に観せます。水・木・金はチーム練習をします。その間に水曜試合のスカウトを終わらせて、土・日に試合。
水曜日に試合があるのであれば、月曜日のうちに全部終わらせて、火曜日の練習でビデオを観せて、水曜日のチームミーティングでもビデオを観せる。土・日の試合についても時間のある選手にビデオを観せる、という感じです。
―個人練習の日も付き合ったりするのですか。
基本、練習は全部行きます。選手がやりたい練習があればそれに付き合うし、課題があるのであれば僕がメニューを作ったりもします。
―大変ですね。
楽だったら、みんなできちゃうじゃないですか(笑)。誰でもできないことができるのは、幸運ですよ。