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ブレックス藤本光正社長「コロナ禍は、今まで見えていなかった部分を顕在化させてくれたという意味でポジティブな側面もあった」インタビュー・前編【無料記事】

株式会社栃木ブレックス代表取締役社長 藤本光正氏

 

「過去最大の赤字」と発言された昨年の決算報告会から現在まで、コロナ禍で厳しい状況の中、企業としてどのように活路を見出してきたのか。ブレックスの取り組みについて、藤本光正社長に話を聞きました。インタビューは前編・後編に分けて掲載いたします。(文・写真/藤井洋子)

 

昨季はどこか吹っ切れないシーズンになった

―昨年は新型コロナウイルスの影響でいろいろと大変だったと思いますが、あらためて、どのような1年になりましたか。

バスケットボールの注目度が毎年高まっており、昨年よりさらに一歩進んだ状況だと思っていた矢先に、新型コロナウイルスの影響で一気に流れが絶たれてしまいました。バスケット全体として事業規模が成長傾向にあり、入場者数も増えてきている中でブレーキが踏まれてしまったことは、本当に残念でした。

ブレックスは、201920シーズンのホームゲーム18試合を消化した時点でシーズンが終わってしまいましたが、そこまでは平均入場者数が過去最多という状況でした。また、グッズ部門をはじめ業績も右肩上がりできており、今後さらに更新するだろうと予測していましたが、36月の4カ月間の売り上げがほぼ無くなってしまったことで大きな打撃を受けました。

戦績の面も非常にいい状態だったと思っています。昨年2月のホームゲームでは中地区1位だった川崎ブレイブサンダースに勝利し、シーズン最後の試合となってしまった3月の無観客での試合も千葉ジェッツに勝利しました。順位的にも優勝を狙える位置にいましたので、そういう面でも最後まで試合ができずに非常に残念でした。

私だけでなく、ファンのみなさん、スポンサーのみなさん、もちろん選手も、どこか吹っ切れないシーズンになったというのが昨シーズンの感想です。

 

―昨年の決算報告会では、「過去最大の赤字」という話があり、今後に向けてコストカットをしていく」ということでしたが、以降、具体的にはどのようなことをされたのですか。

会社としては71日から新しい年度のスタートとなるわけですが、昨年6月の時点ではリーグ戦が60試合できるかどうかも決まっていませんでしたし、開幕時期も少し遅れるのでは、という懸念もありました。

仮に試合数が減ってしまうと経営計画が全く立ちませんし、一方では選手との契約は先行してやらなければいけません。チームの人権費など、出るものが先に決まってしまうという状況でした。さらに入場者数の制限があると、チケット収入が半分になってしまうというリスクもありました。こうした状況から、どういう計画を立てたらいいのだろうと迷いながらプランを練っていきました。

その中で、変動費の部分はできるだけ減らしていこうと話し、社員にはそれを浸透させていきました。基本的には、「自分たちでできることは自分たちでやろう」ということです。

試合の際の会場設営や撤収は、今まででしたら外注のイベント会社さんに来ていただきましたが、その人数を少し減らして、その分社員に稼働してもらいました。そういう部分で変動費をなるべく抑える体制を作りました。

そのほか、リモートワークのおかげもあり、会社の駐車場利用台数を減らすなど、全ての支出を経理や総務部門と一緒に一つ一つ見て精査していき、何とかコストを圧縮したという感じです。その結果、昨年より少ない費用で運営できていると思います。

 

藤本社長自ら会場の片付けも

—以前、アリーナ運営を担当されている菅野さんからもそうしたお話を聞いたのですが、チーム創設時など経営的に不安定な時期だけでなく、今も社員が会場の設営・撤収をしていることに驚きました。

人数でいうとバイトさんのほうが多いのですが、指示を出すのは社員がやっていますし、私もやっています。実は、今日も午前中は汗だくになって会場の片付けをしていたので、シャワーを浴びてから来たんですよ()(※取材日はホーム戦の翌日でした)

そのほか、スクール関連のスタッフなど、運営には直接かかわらないスタッフもいるのですが、「この1年は設営を手伝ってほしい」とお願いし、毎回45人は来てもらっています。彼らは力もあるので、かなり戦力になってくれています。

こうした細かい部分でも、1節で数十万レベルで費用を抑えることができ、それが年間約15節あるので、それだけでも何百万という圧縮になっています。

 

リーグ内には、ブレックスのように会場設営などを社員が実施しているチームも結構あるのですか。

あると思います。ただ、ブレックスアリーナ宇都宮(宇都宮市体育館)の会場の設営は、ほかの会場と比較してもとても大変なんです。栃木県内であれば県南体育館と県北体育館は、1階の座席はロールバックで壁から出てくるのですが、ブレックスアリーナは引き出し式ではないので、65基のスマートステージを一つ一つみんなで運び出して、そこに今度は椅子を置いていくというやり方をしています。

 

—設営はもちろんですが、備品だけでも相当な量になりそうなので、保管や搬入・搬出も大変そうですね。

10トントラックで45台分はあります。細かい話をすると、搬入・搬出口がフラットではないので、トラックで搬入口に付けても、そこから台車に乗せてコロコロと移動できず、一つ一つ持っていき、全部手で渡すという本当に大変な作業なんです。

ブレックスアリーナが建てられたのはおよそ30年前ですし、その時にブレックスが使うことは想定されていませんから、仕方ないことですよね。それに宇都宮市にはかなり融通を効かせてもらっているので、とても助かっています。

天吊りのビジョンやリボンビジョンは設置したままにさせてもらっていますし、ステージもある程度は倉庫に置かせてもらったりもしています。

 

トータルで約2,000万円の圧縮に

 —演出の部分でもコスト削減のための工夫はされているのですか。

気付いている方もいるかもしれませんが、実は照明の数を少し減らしています。お客さまがギリギリ分かるか分からないかの範囲で演出レベルを下げるなどして、演出業者さんにも少し無理を言って発注費を抑えてもらっています。こうしたことを積み重ねたことで、昨シーズンと同じように運営していた場合と比較して、トータル2,000万円くらいは圧縮できています。

そのほか、選手が遠征に行くときの移動代もキャンペーンを使ったりもしています。GoToトラベルで宿泊費や移動費が数十%下がりますし、地域クーポンをタクシー代や食事代として使うなどして、年間で何百万円という削減になったと思います。

 

—当然、試合に関わらない部分でもそうした見直しをされているわけですね。

これまでは、ホームゲームの案内ページはWeb制作会社に素材を渡して制作していただいたのですが、中身も全て自社で制作し、画像加工も内製化しています。また、席数が減ったので広告を打っても満席になってしまう試合が多かったため、広告を減らすなど、細かいところを見直しました。

ただ、コストを削減することで目先の利益幅は大きくなるのですが、それによってお客さまの満足度が下がってしまうと長期的な利益を損なってしまうことにもなり兼ねません。仮に不満が大きくなって、「二度と行くか」となってしまうと、その人があと10試合は来てくれたかもしれないのに、そこでもうお客さまではなくなってしまうということもあるので、運営側としてはその辺りのさじ加減、バランスをとることも重視しています。

 

—その辺は、お客さまの反応を見ながら…ということになるのでしょうか。

毎試合後、ファンクラブの会員にアンケートをしているのですが、そこである程度、意見を吸い上げることができています。それによって、「いくら削減と言っても、さすがにここにはお金をかけなくちゃいけないね」となることもあります。お客さまの声を可視化して、かけるべきところにはかけて、かけなくていいところはかけないと、メリハリをつけるようにしています。

アンケート自体は毎年やっていることですが、今年はイレギュラーなのでお客さまの声はより大切にしながら運営しています。ブレックスは大きな会社が責任会社としていない運営形態で、地域に根差したプロチームとして独立採算でやってきたので、「ファンが第一」という考えが根付いていることもあります。

 

 

 

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