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鵤誠司「いかにチームの歯車を円滑に動かせるか―。チームのために “つなぎ役” に徹するプライド」インタビュー・コラム【無料記事】

 

 

安齋竜三HC(ヘッドコーチ)は、鵤をスタートで起用する理由をこう説明してくれた。

「誠司の良さは、ポイントガードとしての頭の良さにあります。誰を使うべきかを考えられる力が高いレベルにあります。もう一つは、ディフェンスです。僕はいろんなディフェンスをやりたいので、それに対応できるということが誠司をスタートにした一番の理由です。

誠司は、疲れやケガもありながら我慢してずっとやってくれているし、そういう状況の中で少し集中力に欠ける日があったりもしますが、そういう日はチームが苦しくなったりするなど、誠司のコンディション次第でチームの出来が変わることがあります。今はスタートで試合に出ているので、それが特に顕著ですね。

本人もそういう自覚を持っているでしょうし、自分がやるべきことをしっかりやろうという気持ちがあるのも見えます。シーズン通してすごく良くなっているので、誠司への信頼度は高いですよ。

もちろん、ナベ(渡邉裕規)もそうです。(テーブス)海はまだ入ったばかりなので、海がこの2人のレベルまでいくのはもう少し時間が掛かるとは思いますが、それぞれの選手に良い時がある中でも、僕のやりたいことにマッチしている一番のガード選手が誠司だと思います」

 

ビッグマンのディフェンスはもっと評価されるべき

―安齋HCは、「ポイントガードとしての頭の良さ、いろんなディフェンスに対応できることがスタートで出す理由」とおっしゃっていました。特にディフェンスに関しては、鵤選手自身も、ある程度プライドを持っていると思うのですがいかがですか。

そうですね、それはあります。実際、うちのチームは遠藤(祐亮)さんを筆頭にディフェンスが良いと言われていて、確かにそうなんですけど、それだけじゃないというか…。

今のバスケットはピック&ロールが主流になっていて、そうした中でライアン(ロシター)やジェフ(ギブス)という、ビッグマンのディフェンスがすごく良くて。だから、僕や遠藤さんが「ディフェンスがいいね」と言われているだけなんです、実際は。

 

―ロシター選手やギブス選手がしっかりディフェンスしてくれているという安心感があるから、鵤選手は思い切り相手にプレッシャーを掛けられるということですか。

そうです。彼らは脚力もあるし、カバーにも入ってくれる。そういう信頼関係があるので、僕らが安心してディフェンスで頑張れる。それが実際のところです。だから、あの2人はディフェンスでもっともっと評価されるべきです。

 

―なるほど。お互いの信頼関係によって、あのハードなディフェンスが成立しているのですね。では、例えば相手チームの外国籍選手を抑える際、守りづらさを感じる選手はいますか。

特にいないですね。

 

―守りづらい選手がいないというのも、またすごいですね。リーグ戦も終盤を迎えていますが、今後の試合に向けて、チームのためにやっていきたいことがあれば教えてください。

これまでやってきたことはもちろんですが、これからの数試合が重要というか。チームとしての完成度が高くなっていく期間でもあると思っています。今よりステップアップしなければチャンピオンにはなれないと思うので、練習からハードにやっていきたいです。個人的には、しっかりとつないで、チームが円滑に回るようにしていきたいと思います。

 

―ありがとうございました。終盤戦もご活躍を期待しています!

 

“つなぎ役”である誇り

この取材の数日後に行われた3月24日のアウェー富山グラウジーズ戦は、一時14点差にまで離されながらも、3Q(クォーター)にブレックスが逆点。しかし、その後は富山に再逆転され、85905点ビハインドでブレックスの敗戦となった。

この試合で、14点差を追いかけるブレックスに勢いを与えたのは、鵤だった。 “つなぎ役”に徹する鵤の奮闘は数字に表れることはそれ程多くないが、この試合は13得点を挙げるなど、攻守にわたって顕著に表れた。

「点差を離されている時に慌てても、良いことって何もないですよね。やるべきことを一つ一つやるだけなので、焦ると逆にマイナスになってしまう」

そうして、この言葉通りのプレーをして見せた試合でもあった。

12点のビハインドを背負った3Q中盤には、鵤の強気なインサイドアタックで得点。その後も、3Pシュートやスティールなどで奮闘。終始、劣勢に立たされたチームに勢いを与えた。

Q中盤には、ゴール下でも体を張った。

自分より遥かに体の大きな富山のジョシュア・スミスが、勢い良くゴールに向かって突進してくる中、鵤は臆することなくその前に立ちはだかり、全身でスミスを止めようとした。体調不良明けということもあり、自身のケガの心配をしてひるんでしまうのが心情だと思うが、鵤はそんなものとはまるで無縁のようだった。

残念ながらこのプレーはファウルとなってしまったが、あの、いい意味で “肝の据わった感じ”のプレーには、心の中で拍手を送った。

 鵤は、自分がチームの歯車を円滑に動かすための “つなぎ役” であることに、誇りを持っている。そうして、こうした選手がいるチームは “強い” ということを、私たちはこれまでの経験から学んでいる。

鵤のつなぎ役に徹するその姿勢と、焦りがない落ち着いたプレー。加えて、動じなさや肝の据わった感じは、1戦の重みが大きくのし掛かるこれからの試合に必ず活きてくる。それはブレックスにとって、間違いなく大きな武器になる、とあらためて実感した試合だった。

 

 

花粉症対策用のメガネをかけて、花粉もがっちりガードする鵤選手。

 

 

 

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