初優勝琉球のエースは自身ではなく歴史に胸を張る今村。この優勝で「小さな島のチーム」→「美しい島の美しいチーム」に
プロバスケットボールは敗者のスポーツである。だから、美しい。
琉球ゴールデンキングスで戦う者たちにとって、負けたことには意味があった。昨年のBリーグファイナルズでの敗戦から1年。彼らはこの舞台に帰ってきた。顔を合わせるのは千葉ジェッツだ。2年前のセミファイナルでも、今年3月の天皇杯の決勝でも敗れている苦手な相手だ。
超えなければいけない相手と、頂点へ登りつめるための最後の壁を前に戦う。エースの今村佳太は決戦を前にした桶谷大HCの話が終わるのを待って、チームメイトに訴えかけた。
「このチームは『我慢』できるチームになったよ。でも、『我慢』しているだけではこのタイトルは絶対に取れない。
だから、みんなでこの試合を『奪い取る』気持ちで戦おう!」
「我慢」というフレーズを使ったのは、このチームには「ステイ・ハングリー、ステイ・ペイシェント、ステイ・トゥギャザー」という合言葉があるからだろう。「ハングリー精神を常に持ちつつ、我慢し続け、チームとしても一体になってプレーし続けよう」という意味のスローガンだが、桶谷HC就任前から「チームとしての一体」感はあったし、桶谷HCが来てからしっかり「我慢」は出来るようになったという自負もエースにはあった。
今村はあのスピーチの意味を、優勝後にこう明かした。
「昨シーズンも今シーズンも『我慢』という言葉を使い続けてきましたけど、ファイナルズの舞台ではそれだけでは勝てません。『奪い取る』という気持ちでやれなかったことが、今まで琉球ゴールデンキングスがチャンピオンを取れなかった一つの要因だったのかなと思っていたからです」
とりわけ、77-77で規定の40分間を終えたあと、2度の延長戦までもつれ込んだGAME1では、2度目の延長戦の立ちあがりに今村が決めた3Pシュートが、勝利をたぐり寄せる決定的な一撃となった。というのも、1度目の延長戦では両チームの選手たちが疲労に苦しみ、シュートが短くなり、リングの手前側で跳ね返されているシーンが続出していたからだ。その時間帯を乗り越えた後に放たれたあの3Pシュートは、技術ではなく、「タイトルを奪い取る」というエースの覚悟が決めさせた一撃だった。
「佳太はこのチームのエース。エースが最後に仕事をしないと! これ(*昨年阻まれたファイナルズの壁)を佳太が乗り越えたら日本一になるんだ!」
桶谷HCからそう言われていた今村は、敗戦を成長するためのモチベーションへと変えられるエースだった。だから、栄光をつかみとれた。
もちろん、エースだけではない。指揮官もまた、敗戦から学んでいた。
今回のファイナルズで顔をあわせたジェッツは、名実ともにBリーグ史上最強のチームだ。彼らの歴代の勝利数と獲得タイトル数はリーグ最多。そして、今シーズンはBリーグ史上最多勝利数と、24連勝という新記録も樹立している。
そんなチームを倒せた要因は、ディフェンスの力だ。
そして、そのディフェンスのメインテーマとなったのが、ジェッツの得意とする3Pシュートを抑えることだった。
まず、キングスが敗れた今年の天皇杯決勝とレギュラーシーズンの4月1日の試合、それからギュラーシーズン、プレーオフにあたるCSのセミファイナルまでのジェッツの3P成功数と成功率をそれぞれ見てみよう。
天皇杯決勝: 14本(42点分)/36.8%
4月1日の試合: 13本(39点分)/46%
レギュラーシーズン平均: 11.3本(33.9点分)/35%
CSのセミファイナルまでの平均: 14.4本(43.2点分)/40%
ただ、キングスが徹底して策を講じたファイナルズのGAME1とGAME2でのジェッツの3P成功数と成功率はこうなった。
ファイナルズGAME1: 8本(24点分)/21%
ファイナルズGAME2: 9本(27点分)/28%
3Pを打たせないという桶谷HCの戦術面の判断により、ジェッツはレギュラーシーズン平均から比べれば7点から9点ほど、CSのセミファイナルの平均までと比べれば16点から18点ほどの3Pシュートによる得点を失ったことになる。これでは史上最強チームもお手上げだ。
指揮官はファイナルズでの守備の狙いをこう明かしている。
「3Pが1本入ってしまうと、どんどんリズムが良くなってしまって、連続的に入るというのが千葉さんの特長です。まずは、一つひとつの3Pを消していくことにしました」
桶谷HCもまた、敗戦から学ぶとというプロバスケットボールの鉄則を理解している人物だったのだ。
Bリーグ史に残るファイナルズを演じた相手のエース富樫勇樹は試合後にこんな感想をもらしている。
「僕たちもBリーグの(2018-19シーズン当時の)最高勝率を出したシーズン(にはファイナルで)負けて、次のファイナルズで優勝しました。(2020-21シーズンの)宇都宮(ブレックス)もすごく良いシーズンを過ごしたのにファイナルズで負けて、次のシーズン(*昨年のキングスとのファイナルズ)で優勝しました。
(昨シーズンは当時の最高勝率を記録しながらファイナルズで敗れた)キングスが今回優勝したのもそうだと思うんですけど……」
プロバスケットボールは、負けたら終わりの学生の世界とは違う。
むしろ、長期間におよぶリーグ戦を戦っているからこそ負けることは何度もある。学生スポーツのように「負けたら終わり」ではなく、「敗戦から学べるかどうか」が未来を決めるのだ。そんな真理をつきつけたのが今回のファイナルズだった。
ただ、だからこそ、2年前のセミファイナルでジェッツに敗れたときに、当時のキングスの中心選手だった並里成が話していたことを思い出さずにはいられなかった。あのセミファイナルで相手チームの富樫がチームとしてやるべき守備をやらなかったチームメイトについて厳しく指摘していたことについてたずねたとき、並里は深くうなずいてからこう話した。
「勝負の世界では優しいだけではダメで。ときには心を鬼にしてチームメイトに言わないといけない。僕は(*Bリーグ設立前に存在した)bjリーグとJBLで優勝しましたけど、そこでは、練習中から切磋琢磨し、言いたいことも言い合っていたので」
なお、並里はあの言葉について後にこう明かしている。
「どれだけ厳しいことを言っても、優勝したときに『アイツの言っていることは正しかった』とか『厳しいことを言ってくれるアイツが好きだ』と思えるような関係を僕は築き上げたいんです」
そんな並里は昨シーズン終了後にチームを去っている。ただ、エースの今村がチームメイトにかけた厳しい言葉は、当時並里が訴えていた「厳しさ」と一本の線でつながるのではないか。優勝したからこそ、「彼の言っていることは正しかった」と感じるのではないか。そう思わずにはいられなかった。
だから、現在のエースである今村にこう問うた。
「エースとしてチームメイトの心をたきつけるようなメッセージを送ったのは、並里選手の言っていたような厳しさともつながるのでしょうか?」と。
今村は即答した。
「(並里)成さんの言葉もそうですけど、ここに来るまでには本当に色々な人たちが、色々な積み重ねをしてきて、結果的に自分たちがこのタイトルをとれているので。キングスが積み重ねを大事にしてきたからこそ、ここまで来られたのだと思います」
エースは、キングスの今だけではなく、過去にも思いをはせられる選手だった。それだけではない。今村は未来にむけた覚悟も口にした。
「僕は琉球ゴールデンキングスの一員になって3年目になるんですけど、それでもやはり、毎年、選手もスタッフも入れ替わっていて。もちろん、その一方で岸本隆一選手みたいな、ずっとキングスを背負ってきた人もいます。
1年、1年、積み上げてきたものが、今年ようやく形になったんです。それは忘れてはいけないことですし、そういうカルチャーを自分が引っ張っていけるような存在になりたいと思います」
キングスはこれまでプレーオフにあたるBリーグのCSの6回すべてに参加できたものの、それは涙の歴史だった。
1度目の挑戦は準々決勝で敗退。2度目の挑戦から3回続けてセミファイナルで敗れた。そして、レギュラーシーズン最高勝率を記録した昨シーズンはようやくファイナルズにたどり着いたが、そこまでだった。
5回続けての敗退があり、その度に学んできたことがあったからこそ、Bリーグの頂にようやくたどりつけたのだ。
敗者が美しいのではない。敗戦から学べる者が、美しいのである。
今シーズンのキングスはそんなことを教えてくれたチームだった――。
「Small island team! Pretty good small island team!!」
悲願の初優勝を決めた直後、コート上でヒーローインタビューのマイクの前に立ったジャック・クーリーはキングスのファンやブースターへ向けてこう叫んだ。
「小さな島のチーム! 実に素晴らしい、小さな島のチーム!」という意味だ。
ゴール下の番人として今シーズンもリバウンド王に輝き、優勝に貢献したクーリー。彼は、敗者になると決めつけてきた知人の言葉を、“あえて”、あの場で選んだのだという。
「4年前にキングスに来ることになったときに、そのことを自分の周りの人に話すと、『どうせ小さな島のチームなんだろ』と揶揄(やゆ)されることがあったんです」
そうした声を黙らせる方法は一つしかない。優勝することだ。
「こうして4年間プレーしてきて、最終的に優勝を勝ち取ることができて嬉しく思います。こういう小さな島のチームが優勝を勝ち取ることができたのは、非常に大きな意味を持っていると思いますから」
屈辱的な言葉をあえて叫んだのは、「小さな島の、美しいチーム」だと誰もが納得するしかないような結果をつかみとったからだった。
こうして念願の初優勝を飾ったことで、ようやく人々の目は彼らへと向いていくはずだ。
今夏にはキングスの本拠地・沖縄アリーナでバスケットボールW杯が開催(フィリピンとインドネシアとの共催)される。だから、沖縄アリーナをホームにするチームが今回、日本のプロバスケットボールリーグの頂点に輝いたのは、沖縄が世界中の目を引くには最高のタイミングだった。そして、世界中の目を引けさえすれば、多くの人たちに気づいてもらえるはずだ。
沖縄には美しい海と、美しい空もあるということを。
そのときに初めて、琉球ゴールデンキングスは「美しい島の、美しいチーム」と称されるような存在になるのかもしれない。
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