【今週の話題】オールスター、オリックス・山本由伸(オリックス)らWBC組の監督推薦落選は「パ・リーグらしい決断」
7月5日にオールスターの監督推薦選手が発表された。
今季好調の日本ハム・田中正義のほか、抜群の安定感を誇る加藤貴之(日本ハム)、西武からは先発に転向したばかりの平良海馬、野手の方ではオリックスのホープ・紅林弘太郎、安田尚憲(ロッテ)が嬉しい初選出となった。
しかし、一方、山本由伸や宮城大弥(ともにオリックス)伊藤大海(日本ハム)や松井裕樹(楽天)らWBC組は選出されなかった。まだプラスワン投票を残すので、この中から一人が選ばれそうな気はするものの、メディアの報道などによれば、パ・リーグの監督を務める中嶋聡監督がWBC戦士に配慮を利かしての選択だったようだ。
WBC代表選手といえば、それこそスター選手というわけだが、この中嶋監督の決定は大いに評価したい。
もちろん、ファン感情を考えればみたい選手たちであるのは事実だ。しかし、現実問題として例年より体づくりを早めてきた選手ばかりだ。ここはパ・リーグにはまだまだスター選手がいるわけだから、こういった選択も今の時代の流れを映し出しているような気がしてならない。
昨今のプロ野球、特にパ・リーグは選手の疲労、いわゆるコンディションを考えるようになってきている。
記憶に新しいのが、昨年の佐々木朗希の連続完全試合回避、だ。
昨年シーズン、4月10日の対オリックス戦で、28年ぶりとなる完全試合を達成したロッテの剛腕・佐々木朗はその翌登板となった日本ハム戦でも完全投球を見せたが、8回を投げたところで交代となった。これには物議となるかと思われたが、意外にも大騒ぎになることなく、当時のロッテの指揮官だった井口忠仁監督の判断は正しいとされた。これは昨今のパ・リーグの多くのチームが選手のパフォーマンスを維持することの重要度を認識してきたからに他ならない。
日本の野球界はどのカテゴリーにおいても、いい選手、いい投手ほど、試合に出続けている。それは勲章である一方、ある程度の限度を設けなければ、持つものも持たない。高校時代に活躍し、プロに行っても1年目からローテーションに入った松坂大輔さんなどが30歳を前にピークを終えたしまったことは多くのファンが記憶していることだろう。
スター選手の一挙手一投足は常に見ていたいものだが、今この瞬間のことではなく、永続的にという視点を持ったときに、やはり、コンディションの意地は欠かせなくなってきているのだ。
今年の各チームの起用を見ても、必ずしも先発投手に中6日を維持させているわけではない。もちろん、チーム事情によっても異なるが、中継ぎ投手も3連投を回避することは当たり前になってきたし、ブルペンでの投球練習の回数も、制限するチームが軒並み増えてきていることは変化の兆候といっていい。
投手陣だけではない。DH制度のあるパリーグは、指名打者に単に打撃力はあるけれども守備力に課題のある選手を起用するだけでなく、疲労を考慮して休憩の意味を込めて抜擢するチームも少なくない。
また、6月30日〜7月2日までの西武ーソフトバンク戦ではソフトバンクは3日間とも試合前のシートノックを行わなかったし、西武は3戦目の打撃練習を控え組にしか課さなかった。ベテラン組は練習に顔を出さないほどだった。ソフトバンクの藤本博史監督は「時代が変わってきている。それに合わせたこともやっていかなくてはいけない」とシートノックをしない理由を説明していたが、コンディションを重視する考えは、もはや、パ・リーグに当たり前の考えになってきている。
チームによっては多少の考え方の開きはあるものの、これがいわばパ・リーグの文化と言っていい。セ・リーグとの大きな違いといって言い過ぎではないだろう。
中嶋監督が出したオールスターでの決断。いかにも、パ・リーグの指揮官らしかった。
(文・氏原英明)