【公立大会・仁徳杯決勝】泉陽×三国丘 観戦記
11月23日に泉陽高校にて、公立大会、仁徳杯の決勝と2校による定期戦を兼ねた一戦が行われた。試合結果は以下のようになった。
泉陽
201 103 303 0 13
420 016 000 1x 14
三国丘
【バッテリー】
泉陽:上田、狩谷、鎌田晴–高山
三国丘:吉満、田村–楠
定期戦という名の通り、立地も近く、堺市においては伝統校でもある両校による一戦は意地と意地のぶつかり合いに。序盤、中盤、終盤と激しく試合が動き、点の取り合いとなり、最後はタイブレークの末に決着。三国丘がサヨナラで制した。
ただ、泉陽高校のグラウンドの特殊な形状、白砂のグラウンド、ここ数年にしては気温が低めのコンディションで行われたためか、全体的には四球、失策などミスをきっかけとした失点が目立つ荒れた試合となった。今回の試合は点の取り合いとなったものの両チーム、強打というよりは投手を中心とした守りのチームなだけに試合展開としては不本意なものだったかもしれない。両チームとも下校時間が厳密に決められ、練習時間が限られている関係か、点を取られだすと止まらず、ビッグイニングを作られる点はチームとして未成熟な部分だろう。この冬の練習の間に技術やフィジカルとともに煮詰めていきたい部分だ。
その中でも両校の興味深いプレイヤーを紹介したい。特にポテンシャルを感じたのが三国丘の先発・吉満晴人だ。180センチを越える長身右腕で体格にも恵まれ、三国丘の投手らしい下半身主導のゆったりしたフォームからノビのあるストレートを投げ込む。特に指にかかった時のストレートの威力は明らかにストレート狙いだった泉陽の打者たちがわかってても打てないほど。その一方で変化球や制球の精度はムラがある。仁徳杯の準決勝では私学の清教学園相手に2失点の投球ながら8四球と荒れた内容で、この日も四死球が絡んだ失点が目立った印象だ。変化球が決まらず、ストレートを狙われて痛打された場面もあり、7回10失点の投球。その一方で10奪三振と有無を言わさず、力でねじ伏せた場面もあり、いい球と悪い球がはっきりしていた。このムラをなくしていきたいところだが、状況によっては思考をシンプルにして投げてもいいのではと思わせるほど圧倒できるボールはすでに持っている。とはいえ、冬の間は体づくりに励んで、もう一段のレベルアップを期待したい。

先発した三国丘の吉満晴人。長身から繰り出す威力のあるスピードボールは魅力的。
もう一人、三国丘は旧チームから外野手のレギュラーだった田村啓太は3番を打つヒットメーカー。この日は二番手で登板するなど、貴重な左腕投手としての役割も持つ。9回表に3失点を喫し、一時は同点にされるも投球内容そのものは吉満よりも安定していた。主軸を打つ田村は打撃もいいのはわかると思うが、吉満も腕っぷしが強く大きな当たりを飛ばしており、この二人はチームにおいて投打の中心といえそうだ。

三国丘の3番打者・田村啓太。粘り強く、広角に打ち分ける打撃で打線の中軸を担う。貴重な左腕でマウンドに上がることも。
泉陽はシード獲得に貢献した経験豊富な3年生が引退したため、チームの実力もそうだが、経験面も不足しており、秋の新チームはかなり苦戦するのではと思われた。しかし、秋季大会は4回戦進出、近畿大会に出場した大院大高相手にも食らいつく戦いを見せるなど、試合を重ねるごとに形になってきた。特にさすがのプレーを見せたのが3番を打つ貴志幸村だ。三国丘の先発・吉満の速球にも押されることなく、逆方向にも強い打球を放つなど、シュアな打撃で3安打を放った。失策はあったが、守りでも全体的には軽快な二塁守備も見せた。控えながら、旧チームでも二塁や遊撃での試合出場の経験があるいぶし銀タイプ。この冬でスイングの力強さ、鋭さをつけたい。

泉陽の3番貴志幸村。速球に振り負けない鋭いスイングから右に左に3安打。攻撃の起点にも得点源にもなる活躍。
また、泉陽の二番手としてマウンドに上がった狩谷雄飛も要所でいいはたらきを見せた。体格、球速などスペックは失礼ながら特筆すべきところはなく、プレースタイルも粗め。ただ、それをカバーするようにテンポのいい投球、感情表現豊かなマウンド上での振る舞い、打席でもオーバーリアクションなどでチームを鼓舞させてくれる。旧チームでは田中仁一朗に近いタイプか。この選手がチームを盛り上げた影響もあったか、序盤、中盤の劣勢にも沈むことなく粘り強く戦った。6回裏に6失点を喫して降板するも、その後も右翼の守備に就き、9回表には同点となる適時打。それまで無安打だったが、ここぞの場面で一打を放つ“持ってる男”の要素も持つ。このような選手の存在は一発勝負の高校野球においては必要な時が来るだろう。先発した上田、三番手で好投した左腕・鎌田晴一とともにエースを争い、決してムードメーカーで終わらない選手に成長してほしい。

勢いのあるストレートを軸に気迫の投球が持ち味の泉陽・狩谷雄飛。表情豊かな選手だが、ムードメーカーで終わらない成長に期待だ。
多くの高校で部員数減少が叫ばれる中、この時期に今も定期戦が行われることはこの日も多く駆け付けた卒業生やオールドファンにとっては喜ばしい限り。この試合後には両校の卒業生によるOB戦も行われた。三国丘は近年でも16強入り、泉陽は今年の夏に初のシード獲得と両校、公立ながら府内でも実績を残している。上昇気流のまま、2校がしのぎをけずり、次は8強の壁を越えて、古豪復活といきたいところだ。