華麗な守備のプレミア12戦士を生み出した指導の極意① “選手の可能性を広げる”こだわりのノック編
2024年11月に行われたプレミア12は決勝で惜しくも台湾に敗れ、二連覇を逃した。しかし、代表メンバー28人中11人が初選出と次第を担うフレッシュなメンバーが国際大会で経験を重ねた。その初選出された選手のうち、内野なら全ポジションを守れる村林一輝も持ち味を発揮し、スーパーラウンド第3戦の台湾戦では先頭打者本塁打と打撃でも爪痕を残した。今年は所属する東北楽天ゴールデンイーグルスでも遊撃手のレギュラーとして活躍したが、ブレイク前から堅実かつ華麗な守備には定評があった。そんな村林を大塚高時代に指導したのが現在、千里青雲高で監督を務める室谷明夫氏だ。野津章弘部長が大阪イチと評するだけでなく、他校の指導者、選手や保護者などからもそのノックの腕前は評判だ。プロでも名手と言われる村林の守備力のルーツはこのノックなのではないか。今回は室谷監督にノックのコツや心がけていること、先入観にとらわれない内野手向きの選手とはどんなタイプなのか。そして、教え子である村林をはじめ、プロでも通用する遊撃手とは。今年、ドラフト指名された遊撃手を例に3編に渡って語ってもらった。

大塚高時代の教え子である村林一輝(楽天)。定評のある堅実かつ華麗な守備に加え、打撃が開花したことで遊撃手のレギュラーに定着。プロ入り10年目を迎える2025年から希望していた背番号6に変更する
◆恵まれない環境だからこそ身についた技術
はじめに室谷監督が練習においてノックを打つようになった経緯について説明したい。
それは中学2年の秋のこと。当時、室谷監督が所属していた中学の野球部には野球経験のある顧問が不在で実質、監督兼選手としてプレーしていた。練習試合の申し込みの電話も自分で行い、普段の守備練習でも自身がシートノックを打つしかなかったのである。天王寺高時代は政英志監督(当時)が指揮を執っていたこともあり、選手として集中できる時間は増えた。しかし、政監督が教務などで不在の時はここでもノックを打つこともあった。大学は四国の高知大学へ進学。大監督である故・小松清祥氏が指揮を執っていたが、当時ですでに高齢のため本格的なノックを打つことができなかった。2年時までは先輩の学生コーチに藤井朋樹氏(現・佐野高監督)などがいたが、その藤井氏をはじめ先輩たちが卒業すると、試合前のシートノックを打ちつつも、捕手としてリーグ戦の試合にも出場することになった。当時は今ほど大学野球への継続率が高くなく、ましてや地方の国立大学となれば、スタッフや部員など人材の確保は野球人口の減少が叫ばれる今以上に困難な時代だった。そして、高校野球の指導者になって約15年、現在もノックを打ち続けている。室谷監督は元巨人・亀井善行などと同世代の1982年生まれだが、42歳にして、かれこれノックを打って約四半世紀といったところだ。そういう環境に置かれていたためか、上手くなろうとしたのではなく、自然と技術が身についていった。取材日の数日前の練習でも2時間半ほど部員たちにノックを打って、「さすがに疲れましたね」と漏らしたが、そのバイタリティは不惑を越えた現在も衰えていない。長年培ったノックの技術に関して、自身では「上手いと思ったことはないですが」と謙遜するが、それでも気づいた視点や身についた技術はある。前置きが長くなったが、ここから本題である室谷監督が守備を上達させるためのノックの技術的視点や心がけていることについて語っていく。

ノックを打つ技術の高さは他の指導者や保護者らから定評のある室谷明夫監督(写真は大塚高時代)。中学2年から守備練習でシートノックを打っていた。
◆選手がミスしやすい打球をノックで再現するための3種の打球回転
先述のように室谷監督の現役時代は恩師やチームメイトには恵まれたものの、練習環境には恵まれずに過ごした。しかし、逆に言えば、そのような環境だったからこそ、今のノックの技術が身についたともいえる。おそらく、スタッフが充実している強豪校ならそんな機会はなかっただろうとも述懐している。
ところでよく「あの監督はノックが上手い」というのはチームの評判が気になる選手や保護者だけでなく、ファンやマニアの間でも語られるテーマだ。たとえば、決して強い打球ではないが、捕れるか捕れないか、飛び込むか飛び込まないかの絶妙な位置へ打つ人が上手いというのが一例だ。また、悪いノックの例としては飛びついても捕れないようなコースに強い打球を放って、左右に振ったり、ファウルグラウンドにまで追わせるような実戦的ではないもの。これはいろいろな元プロ、アマ野球の指導者が著書などで語っている。強くない、捕れるか捕れないかの絶妙な打球を転がし、そして、基本的な動作で捕球し、しっかり送球できるような形を繰り返して守備を上達させる方向へと持っていくノックがいいというのが総合的な認識に思える。その点を室谷監督はどう捉えているかと聞いたところ、上記のようなぎりぎりを狙ったようなノックも技術の一つであり、指導者になりたての頃はそのように思っていた。しかし、ある時に「内野手がミスする時って、どんな時なのかな」とふと考えたという。ちなみに今回は内野守備やゴロを前提としたテーマなので、フライやライナーに関しては割愛する。まず、打球はバットがボールにどう入るかによって、主に以下の3つの回転をして転がっていく。
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