【オフトレ2025】全員両打軍団の佐野高校の冬の練習に密着! 土台づくりを終えて、夏の躍進へ(前編)
オフシーズンの取り組みについて紹介する記事。今回は佐野高校(以下、佐野高)の練習にお邪魔した。この佐野高はなんといっても全員が両打ちというユニークなチーム作りが特色だ。また、ノーサイン野球で選手自ら思考し、自主的、主体的な姿勢で試合に臨むなど異色の雰囲気を漂わせる。しかし、それだけでなく、近年では2022年秋に5回戦に進出し、大阪府の21世紀枠の推薦校に選出。昨夏は7年ぶりの夏の勝利を上げると4回戦進出、昨秋には2022年センバツ8強の金光大阪に勝利するなど、近年の戦いぶりは実力も伴ってきている。
そんな野球部の練習は一体、どのような取り組みをしているのだろうか。1月某日、泉佐野市にある同校を訪れた。

2022年に創立120年を迎えた大阪府泉佐野市にある佐野高校。レトロな雰囲気の本館校舎は府内最古ともいわれる。鳩を象った校章から地元ではハト高と親しまれている。
この日は週末で午後からグラウンドをフルに使える日だった。12時半開始の予定だったが、午前中はサッカー部が使用していた影響もあって、グラウンド整備に時間がかかり、予定よりやや遅れてのスタートとなった。サッカー部にとってもグラウンドをふんだんに使ってできる貴重な練習時間だろう。グラウンドを共用する公立校にとってはこのような他部との兼ね合いによる影響は所々で出てしまう。グラウンドは二面あるが、どちらも十分なスペースがあるとは言えず、試合を行うには難しそうだ。

軽車両を用いてグラウンド整備を進めるのは藤井朋樹監督。グラウンドは二面あるが、どちらも十分なスペースはなく、練習試合の開催は難しい。
アップは各々で済ませ、練習開始。まずはキャッチボールから……と、ならないのが佐野高流だ。その代わりに3人1組で行うゴロ取り、ステップスロー、中継プレーといった実戦的なメニューから始まる。

最初に始まるゴロ取り、ステップスロー、中継プレーの様子。
このメニューを規定時間にこなすと、次は4人1組(参加人数によっては3人1組の場合も)になって、ノッカー、キーパーが1人ずつ、守備役の2人でローテーションを回しつつ、軽めのノックを行う通称・ファンゴ。

ファンゴの様子。
さらに次は投手対打者、守備役の二人によるペッパー。これも4人一組でローテーションを回しながら規定時間までこなす。

そして、ペッパーの様子。最初から実戦を意識した動きが多い。
ここで現在の佐野高の部員数だが、2学年合わせた人数は25人と公立校では比較的、多い部類だ。例年は1学年に10人いるかどうかといったところだが、新2年生が17人と昨春は多くの部員が入部した。その中には3人の野球初心者も。さらにマネージャーは5人と総勢30名で活動している。

ここでキャッチボール開始。普通の野球部の練習になってきたが…
そして、これらの最初の練習が終わった後にようやくキャッチボールが始まり、普通の野球部らしい練習になってきた。中間、遠投とこなした後、最後の2分間で塁間のキャッチボール、対面クイックを行う。ただ、この2分間、ノンストップ、ノーミスで終わるのが条件。誰かがミスをすれば、やり直しのペナルティとなる。高校から始めた野球初心者にとってはこの2分間は非常に長く感じることだろう。

キャッチボールの最後に行う塁間距離の対面クイック。2分間、ノンストップ、ノーミスで終わるのが条件。練習時間の少ない平日はこれだけで終わることもあるとか…
キャッチボールを終えると、本格的な守備練習の前に内野のダイヤモンドを使用したボール回し。本塁から時計回りや逆回り、二塁→一塁→三塁と様々なバリエーションをこなす。そして、このボール回しを終えると、いよいよ、藤井朋樹監督によるノックが始まる。そして、ボール回しから目につくが、全員が内野のダイヤモンドに集結している。これも佐野高の特徴で基本的に外野手は置かない。そのため、外野手が本職の部員もボール回しやベースカバーに入る動きを練習中にこなさなければならない。これはグラウンドが狭く、周囲に民家もあるため、大きな飛球を打つことによる外野守備の練習を校内でしづらい事情もある。広いグラウンドを持つ高校との合同練習や球場練習の時に行うぐらいのようである。総勢25人でダイヤモンド全体を使い、時には藤井監督も声を張り上げ、練習はにわかに熱気を帯びてくる。

内野のダイヤモンドを使用したボール回しを終えると、藤井監督によるノックが開始。
熱気を残したまま、次に行うのはバントゲームだ。先ほどのノックも様々なシチュエーションを想定しながら行っていたが、今度は実際に走者を置き、より実戦的な練習となる。特に走者を置くことで、打球を捌く守備側は普段のシートノックよりも実戦を想定したものとなる。そして、走者はあえてオーバーランをしたり、実戦であれば自重するようなケースでも自重せずにどんどん走ってきて、プレーが止まらない。それに対して、守備側は慌てずに対処できるかどうか。走者は審判役の名郷根亮部長の「タイム!」のコールがあるまで次の塁を狙う隙を窺う。暴走に冷静に対処できる場合もいれば、固まって生還を許してしまうこともあった。守備側には起きなさそうで起きるプレーがあること、走者側にはアウトになるまであきらめないことなどがこの練習を通して伝えたいことのようだ。

バントゲームの様子。ただ、バントするだけでなく、走塁や守備の練習も兼ねている。
それはこの次のランダウンプレーの練習にも表れる。ここでも走者側と守備側の対決となるが、走者が二人いると生じるのが塁の占有権。このルールはプロでも間違うことがあるぐらい咄嗟の判断と確認が難しい。これ以外にも複雑な状況や部員の中に状況を理解できてなさそうな時には藤井監督が一旦、練習を止めて状況の説明と確認をしばしば行う。守備側にとって嫌な動きを今度は走者側になって生かす、そのような攻防を繰り返しながら、メニューをこなしていく。

ランダウンプレーの練習では走者が単独、複数と様々なシチュエーションを用意。

このような実戦練習を繰り返ししていると、ありえなさそうでありえるプレーが実際によく見られる。そんなプレーに面食らわずに適切に対処できるかの判断や技術を養う。
この日の全体練習は以上で、あとは残り時間で各々が課題練習。全体練習でできなかった外野守備のようなノックを行う部員や置きティーを行う部員たちなど様々。これらに取り組み、時間が来たところでこの日の練習は終了となった。

最後の課題練習で外野手形式のノックを受ける部員たち。

こちらは課題練習で置きティーに励む部員の姿。
ここまで、佐野高の週末練習の一連のメニューをご覧いただいたが、どのような感想を抱いただろうか。全員両打ち軍団という独特なチームづくりとは裏腹に基本的かつ実戦的な練習をひたすら繰り返すメニューが多い。人によってはありふれた、普通の野球部にありがちな練習に見えるかもしれない。しかし、その練習にはレギュラー、控え、高校から始めた初心者関係なく、すべての部員が同じメニューをグラウンド上でこなしている。そして、時には練習を止めて、藤井監督が練習やプレーの意図、状況や準備の確認といったものを部員全員に共有できるように懇切丁寧に説明する。ここに佐野高の強みがあると感じた。
少人数の頃からできるだけこなすようにしていたという伝統の実戦練習を繰り返し、頭に叩き込むことで選手自らが思考してプレーをし、佐野高の自主的な野球になっていくのである。

藤井監督が練習を止めて、プレーの確認、意図などを説明。それを聞く部員たち。