あの高校球児に会いに行く 鷺宮製作所・西浦謙太(八尾高出身)
先日、横浜スタジアムで行われた第79回JABA東京スポニチ大会2日目の模様をお伝えしたが、3月11日に準決勝二試合、決勝戦のダブルヘッダーが行われた。その結果、鷺宮製作所が大阪ガスを決勝で下し、スポニチ大会初優勝と同時に10月28日開幕の日本選手権への3大会ぶり15回目の出場権を獲得した。
苦節を乗り越えた。全国的にも厳しい東京、関東地区での戦いの中、この2年間は都市対抗、日本選手権の二大大会を逃していた。しかし、今年から主将に就任した野村工が決勝戦では右翼スタンドへ放り込み、サヨナラ本塁打で優勝と劇的な幕切れで日本選手権の出場を勝ち取った。野村は実は今大会は5試合で3安打のみだが、その3安打の内、2本が本塁打と印象的な一打を放つ活躍。この野村以外にも決勝で同じく本塁打を放ち、大会首位打者の村上公康、最高殊勲選手賞に輝いた中島隼也投手といった主力選手はもちろん、新人ながら遊撃手を任された島野圭太(履正社高→帝京大)、2年目のプロ注目左腕・竹丸和幸の投球など若い選手の活躍も光った。佐藤大雅、西浦謙太の両捕手を交互に起用するなど、幅広い選手起用でチームが標榜する“全員野球”でタイトな日程の大会を勝ち抜いた。今回は捕手二枚看板のうちの一人、西浦謙太に話を伺った。大阪の公立校出身で大学は関西を離れ、社会人では鷺宮製作所でプレーという経歴は奇しくも父・西浦敏彦氏(現・関西外国語大硬式野球部監督)と同じだ。親子二代で同じチームに所属し、ポジションも同じく捕手でどうしても父を彷彿とさせるか、重ねて見てしまう。実際、西浦自身は鷺宮製作所というチームでプレーすることに関して、どのような思いを抱いているのか。2日目の試合内容と同時にその面にも踏み込んでみた。

ベンチからの指示を見る鷺宮製作所の捕手・西浦謙太。ENEOS戦では3投手による継投と巧みなリード、準決勝では本塁打とパンチ力ある打撃が光った。
◆光った試合運びと巧みなリードの西浦謙太「欲を出して、アウトを取りにいかないように」
「あの頃と比べると少し丸くなりましたかね」
やや苦笑しつつ振り返ったのは八尾高時代の話だ。筑波大時代も主将を務めたキャプテンシーは高校時代から優れており、グラウンド上の監督といえる存在だった。ある試合でチームメイトの打者が嫌な形でファウルを打たされてるのを見るや、
「それでさっき(前の打席)も打ち取られてるぞ!」
と、一塁塁上から叫んだり、守りでも左のサイドスローの投手の開きが早くなっていたのを見て、
「開いたら、(打者から球が)見やすくなるねんで!」
と、大きな声で投手にフォームの修正を促した。相手に聞こえてもお構いなしの大声で細かく指示を出していた姿が印象深いが、こんなシーンもあった。相手打者が送りバントの構えをして、一つ牽制を挟んだところ、その打者がバントからバットを立てた仕草を見逃さず、相手打者やランナーコーチに気づかれないように三塁手にバスターを警戒して、後ろへ下がるジェスチャーを静かに送っていた姿も印象に残る。そのような姿勢は他校の指導者からも「うちの選手たちも見習ってほしい」と言われるほど評価が高かった。当時から指揮を執る長田貴史監督も西浦がいたことでチーム作りの面で助かった場面も多かったはずだ。

八尾高時代の西浦謙太。本職は捕手だが、一塁、外野を守り、打順は中軸だけでなく、1番を打つことも。(写真は2018年11月撮影)
現在のチームの中ではキャリアも浅く、持ち前のキャプテンシーを発揮できてはいないが、捕手を守ってる時の投手を含めたナイン、ベンチへの気配りや準備と確認をしっかりしつつプレーするところは変わらない。パンチ力ある打撃も健在で今大会の準決勝では同点の本塁打も放った。そんな西浦を鷺宮製作所の幡野一男監督は以下のように評する。
「彼はやっぱり、野球を勉強してるのもあるし、分析の方も相手に入り込んでしますし、そういうのが好きなキャッチャータイプなんでしょうね。あとは投手のいいところ、悪いところも知ってて、その日の状態で臨機応変に対応するっていうんでしょうか。とにかく、捕手としての対応力がすごい高いんです。本来なら、もうちょっと高い打順に入れたいんですけど、今日(3月9日)はENEOSさんが相手ということもあり、守り合いを想定して、守りを重視っていう意味合いで打順をちょっと楽なところ(8番)に置きました」
昨年は中軸を打つ試合もあり、幡野監督は西浦の捕手としての能力だけでなく打力も十分に評価している。しかし、ENEOS戦は前日の試合で打線が活発だったこともあり、そんな好調の打線を封じるべく、守備に比重を置き、西浦にはリードに集中してもらおうと下位打線に置いた意図も明かしてくれた。では、西浦自身はこのENEOS戦、どのような意識で試合を組み立て、先発の竹丸和幸をリードしたのだろうか。
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