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【コラム】代替大会を終えて

長野県独自の高校野球代替大会は、佐久長聖の優勝で幕を閉じた。コロナ禍で甲子園が中止になった中での異例の大会。長雨に悩まされたが、コロナの感染拡大で途中中止となることなく、全日程が終えられたことにまずは関係者に敬意を表したい。

春季大会がなく、十分な練習、実戦が積めずに迎えた本大会。組み合わせが地区からの勝ち上がり方式だったり、そして1試合ごとにベンチ入りメンバーの変更が可能だったり、異例づくしのルールの中、選手たちには真剣勝負の場が用意された。

佐久長聖は3年生だけで臨み、52人の部員を全員交替でベンチ入りさせながら、頂点に立った。昨秋はエース梅野頼みだった投手陣だが、複数投手が成長し、エースをサポート。決勝での完封劇につなげた。主力以外の選手たちも代打、代走、守備要員などそれぞれの仕事をした。

セーフティーやプッシュバントなど揺さぶる戦術も浸透していた。コロナで実戦の場は少なかったが、藤原監督は「1年通して取り組んできている」と説明。藤原監督は取材で「一年トータルで考えると」という表現をよく使う。秋だから、春だからでなく1年間、つまり夏にどういう形になるかを計算している。そこが抜群の夏の強さにつながっていると思える。

ベンチメンバーの入れ替えが可能なことから、私立の中にはオール3年で臨むチームがいくつかあった。これが選手、チームの士気を上げたり、結束を深めたりするのであれば、通常開催になっても入れ替え可能にしてもいいのではと考えさせられた。よく、控えだからこそ学べることがある、という意見を聞くが、彼らは野球がやりたくて入部している。

2年連続決勝進出の飯山も見事だった。常田という抜き出たエースがいたとはいえ、岡谷南や上田西のリベンジを許さない粘りは底力があったから。特に打撃陣の援護が大きかった。

常田も長い自粛期間を経ながら、プロ注目にふさわしい投球をした。何より連続完投するなどタフになり、エースの気概が見られた。いい、いいと言われ、実際に期待に応える投球をするのは難しいもの。チームも前年の優勝世代と比較され続けたが、違うスタイルで結果を残した。

ただ、長聖のようにきっちりとした野球をしているチームを越えない限り、2度目の頂点はない。さらなる進化を期待したい。

ベスト4には上田西と都市大塩尻も入った。両校、昨秋の戦績と比較すると明暗が出たとも見られる。昨秋の県王者・上田西もオール3年で臨んだ。個の能力は相変わらず高く、新戦力も台頭したが、昨夏敗れた飯山に今年もうまく攻められた。昨秋県16強止まりの都市大は躍進。突出した選手はいないが投打のバランスがよく、しぶとかった。

ベスト8組では、56年ぶりとなる下伊那農が注目された。前年のチームは非常に能力の高い選手が数人いた一方、今年はそうした選手がいなかった分、チーム力で戦った。あらためてチームスポーツの可能性を感じさせた。

岡谷南の3年連続の8強も見事。毎年よく鍛え上げてくる印象だ。松商は中信大会から難敵を連破。エース長野が素晴らしかった。試合を重ねるにつれ、ややバットが湿り気味になったように思う。昨秋県3位の長野日大は、初めて劣勢になった準々決勝で実戦経験の少なさが見えた。

昨秋の地区上位4校、計16校が、今大会の地区大会でシードとなった。このうち16強にシード11校が残った。さらにベスト8のうち7校はシードで、波乱は比較的少なかったといえる。つまり昨秋から戦力分布に大きな変化がなかったと見て取れる。地区大会形式の採用や長期の練習自粛などが影響したとみられる。

地区大会では、北信で更級農が3回戦でシード長野商を破り、2年連続で16強と結果を残している。南信の松川も3回戦でシード東海大諏訪に競り勝つ金星を挙げている。

梅雨にも振り回された。岡谷工―飯田OIDE長姫は2度の降雨ノーゲームを含め1週間ほど日程がずれたが、最後まで死力を尽くした。

大会を通じて、練習、実戦不足を感じさせるミスが多くみられた。よく春の大会で見られるようなミスもあったが、これは仕方ない。ただ、フライで全力疾走を怠る場面などが少なからず見られたのは残念。この大会がどんな支援で成り立っていたか、もう一度考えてほしい。

基本無観客、大きな声での応援なしは、寂しい限りだった。応援や観衆により球場の雰囲気が変わることで試合の流れが一転することも少なくなる。これを当たり前に考えた方がいいかもしれない。今月末に始まる秋季大会、さらに来季も同様の恐れがある。

そうなると、また入場料収入がなくなり、運営費が寄付頼みに。これを機会に抜本的な収入源の確保も考えてほしい。学校単位の安価な登録費ではなく、他競技のように選手個々の登録費の徴収や、バーチャル高校野球の有料化または広告費の高野連還元など。高校野球で稼ぐ(商業主義)=悪、といつまでも言っていられない。

全チームが新チームへと移行。秋の大会はおよそ2週間後には始まる。新チームのスタートが全体に例年より遅れ、特に3年生中心に臨んだチームは下級生の実戦経験も少ない。どの県も状況は似ていると思うが、北信越でも勝ち上がれるチームが出てきてほしい。

甲子園に行けない優勝の思いは彼らでないと分からない。ただ、この代替大会が次へのステップになることを願うばかりだ。

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