アノーニ『ホープレスネス』 ・・・あなたの眼の前にドローンが現れた時はもう遅いのです[今週のヘッドハンター] (久保憲司)
アントニー・アンド・ザ・ジョンソンのアノーニ(旧名アントニー・ヘガティ)の『ホープレスネス』がすごい。何がすごいって、アルバムタイトルがすごい。絶望ですよ。そのタイトルからドーンときます。ジョイ・ディビジョンの『クローサー』というアルバム・タイトルと同じくらいガーンときます。『クローサー』はヴォーカルのイアン・カーチスが自殺して、そのタイトルの恐ろしさに震えました。死が近づいてきている(クローサー)という意味だったんです。
とにかく重い。僕のゲイの友達は毎日このアルバムを聴いているそうですけど、僕なんか、1日4曲くらい聴いたら、しんどくなって、ハァ、ハァと肩で息をしてしまいます。でもね、ゲイの人がこのアルバムを聴いて悶え苦しんでいる感じは僕にはよく理解できます。
まさに80年代初頭にザ・スミスが登場した時がこんな感じでした。80年代初頭の暗いイギリス、何の未来もないあのイギリス、新自由主義者によって、不況なのに規制緩和され、どんどんと経済は最悪になっていく。あの頃はピケティもポール・クルーグマンもスティグリッツもいなく、フリードマンな新自由主義な経済学者に社会は乗っ取られ、誰もが途方に暮れていた。
金融緩和すればいいなんて、誰も思いつかなかった。今のイギリスの労働党の党首ジェレミー・コービンみたいに「人々のための量的金融緩和政策」と叫んでくれる人はいなかった。無から金を作って、ヘリコプターで人民にお金をバラ撒くのだ。日本だとアベノミクスですね。第一の矢でお金をバラまくことによって、平成23年には3万人以上いた自殺者の数は今年2万4千554人に減った。色々と批判されるアベノミックスだが、毎年何千人もの命を救ってきたのだ。
インフレ率2%になるまでもっともっと金を刷り続けないといけない。そして、この20年間のデフレで苦しんだ20代から40代の人たちが楽しく暮らせるようにしないといけない。第二の矢の政策でコンクリートに使ってしまったりせず、人に使うべきなのだ。大学を無料にする、待機児童をなくすようなど、野党はアベノミクスなんか生ぬるい、俺たちはもっと金をばらまくぞと対抗しなければならないのだ。
話がすごい方向に行ってしまった。でもね、未来を明るくする方法を僕たちは手にしているんのだ。それをドイツのメルケルや、アメリカの共和党、日本の財務省が、そんなのダメだとか行っているだけなのだ。この金融政策を推し進めようとするサンダースはヒラリーに負けた。まだまだこの無からお金を作り、すべての人を幸福にする方法論を嘘だろと思っている人は多い。でも、みんながもっと大きな声を出していけばきっと実現するのだ。
明るい未来は見えているのに、なぜアノーニは絶望しているのだろう。それは彼女がトランスジェンダーだからだ。『ホープレスネス』の一番の目玉曲「Drone Bomb Me」を聞けばそれがよくわかる。ドローンによって吹き飛ばされた少女の目線で歌われる歌。この歌を聴いていて“私、ドローンで殺されたの”という悲しさは聞こえてこない。聞こえてくるのは“私を選んで、ドローンで頭を吹き飛ばして”という叫びだ。そういう風にしか聞こえない。
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