久保憲司のロック・エンサイクロペディア

イギリスのEU離脱に「それだけの価値があるのか」 ・・・ノエル・ギャラガーが政治に関わらなくなった理由 (久保憲司)

EUに残るか、離脱の国民投票の時期にロンドンにいたので、その空気感はどんな感じだったかを書いておこうと思います。

イギリスに着いたのは選挙3日前、日本のTVよりもこの重大な問題をたくさん取り上げていないような気がしました。公平を期するTVなので、選挙に作用するようなことはあまり出来ないという感じだったのでしょう。この辺は日本よりも紳士な感じがしました。

 残留支持の若い人たちが地下鉄の駅前で静かにシールを配りながらキャンペーンをやっていました。離脱派の人たちはロンドンではあまり表ってだった活動をしていないようでした。離脱派の人たちは個人個人で「離脱に入れます」といった紙袋を持っていたり、家の窓に離脱というポスターを貼ったりしている感じがしました。もちろん、残留派の人たちもメッセージを窓に貼ってアピールしていましたが、全体的には静かな感じでした。昔だったら、組合の人がバッジ売りつけたり、カンパ募ったり、うるさい感じだったのですが、今はIT会社で働いているようなスマートな人たちが静かに運動している感じでした。SEALDsの若者たちみたいな清潔な感じの人たちでした。離脱派のグループの人たちはTVでしか見てないんですが、こちらは六本木ヒルズ族みたいなちょっとガサツでイケイケな人たちでした。

 僕が嬉しかったのは有名なドイツ人アーティスト、ウルフギャング・ティルマンズがEU残留のキャンペーンをかねた個展をやってくれていたことです。選挙前日の夜にはトーク・ショーをしたりしていました。国民投票のおかげで得をした感じです。

残念だったのはミュージシャンの人たちはEUに残るための表立ったキャンペーン活動をしていなかったことです。この時期ヨーロッパ、いや世界最大のロック・フェス、グラストンヴェリー・フェスティバルが開かれていたのですが、CND、グリーンピースなどと活動を共にしてきたグラストンべリー・フェスティバルからは主催のマイケル・イーヴィスとその娘さん(現在の主催者)が、INのメッセージ・ボードを持った写真をツィートしたくらいでした。

 

 

オアシスのノエル・ギャラガーは「国民投票に行くか、行かないなんて、その日の朝にならないと分かんない。俺は忙しいんだ」と答えてました。

選挙結果は、皆さんの知っている通りです。ロンドンの空気が変わった感じがしました。大変なことをしてしまったなという空気を感じました。選挙後、EU離脱とググった人がたくさんいたというのがよく分かる感じでした。TVにも、これからどうするんだという騒がしさが生まれてました。TVからは離脱派のナイジェル・ファラージの「インディペンス・ディ」と泣き叫ぶ姿が何回も写っていましたが、ロンドンでは彼の周り以外で嬉しそうにしている人は誰もいない感じでした。

 

この騒動を見ていて、思い出したのは今からフォークランド紛争のときに作られた。エルヴィス・コステロの「シップビルディング」という曲です。歌っているのはロバート・ワイアット。コステロが自分のアーティスト生活の中で最高の歌詞という作品です。

 

 

Shipbuilding どういう歌かというと、長いこと不景気で仕事のなかった造船所で働く男が奥さんに新しいコートと息子の誕生日に自転車を買ってやろうかと思う。なぜなら戦争が始まって、造船所の仕事が再開されるという噂があるから。二番は息子が戦争に行くという、たいした作戦じゃないから、クリスマス頃には帰ってこれるという。そういう歌です。オチは俺たちは船を作ることしかできないから、一生懸命やるだけだです。

泣けてしまいますね。

海外のアーティストは政治的なメッセージを歌うとかみんな言いますけど、海外のアーティストは戦争反対とか、そんな簡単な歌は歌わないです。みんなに考えさせる歌をずっと歌ってきてるんです。

「シップビルディング」のキメは出だしの “Is it worth it? (それだけの価値があるのか)” です。もう何の意味もない島を守るためにたくさんの戦死者を出す価値があるのかと、奥さんと息子へのプレゼントをかけているところです。必殺の出だしですよね。

 

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tags: Crass Elvis Costello Noel Gallagher Robert Wyatt

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