ニール・ヤング『アフター・ゴールド・ラッシュ』 ・・・グランジと呼ばれたポスト・パンクも切ないメロディと爆音ギターで歌いだした 【世界のロック記憶遺産100】
僕がパンクだった頃、長髪でジーパンにパッチワークして、装飾バリバリの高価なマーティンD-45でファルセットで歌うニール・ヤングは敵だった。
パンクと言っても、髪を立てたり、安全ピンをイメージされると困るのですが。
僕にとってパンクというのはリチャード・ヘルやワイヤーなどのインテリ・ヤクザ的な芸術なんです。一番最初に髪を立て、破れた服を安全ピンでとめた人はリチャード・ヘルですが。
1番最初にやった奴がパンクで、2番目にやった奴はパンクじゃないわけです。芸術ですから。2番目は商品です。
商品が悪いわけではないです。ノイズをやっていたチャーミーさんがラフィン・ノーズを始めた時、チャーミーさんは確信犯的にパンク、ハードコアを商品にしようとしているなと気づきました。誰もやっていないことをやったからチャーミーさんもパンクです。後にランシドとかがやることを10年も前にやったのです。
パンクの一番のメッセージは何か新しいことをする。だからウッドストックの農場を買ってマリファナを吸うニール・ヤングは過去の象徴そのものの、敵だったのです。
偶像崇拝を否定するパンク・シーンの親玉ジョニー・ロットンを讃える歌を歌ったからニール・ヤングのレコードはより燃やさなければならないレコードでした。ニール・ヤングのレコードをフリスビーにしたかったけど、レコードを持っていなかったので、一生聴かないでいようと誓ったのです。
そうやって封印した人が、実はパンクの重要な元ネタだったと気づいた時の衝撃は世界が崩壊するくらい凄かった。
リチャード・ヘルがいたバンド、テレヴィジョン、このバンドこそがパンクのプロト・タイプと言っていいバンドです。僕がテレヴィジョンを聴き出した頃はリチャード・ヘルは脱退していたのですが。
エゴン・シーレの絵に出てきそうな色白で病弱そうなトム・ヴァーレインと、ブライアン・ジョーンズとキース・リチャードの恋人アニタ・パレンバーグが愛人にするくらい美少年なリチャード・ロイドの二人が狂おしいまでのギター・バトルを繰り広げる。その姿をゲイのマネジャーのテリー・オークが悶々としながら見ている世界で初めてのやおいバンドだったのです。
青白い首筋を伸ばしてギターを弾く姿の二人の美しさといったら・・・。違う。都市の闇夜にうごめくネズミのような音楽、ウッドストックの農場でバイク事故を起こしたから「ちょうどいいや、少し隠居しようか」というのとは違ったどこにも行けない音楽。二人のギターは天にも届くかのようですが、どこにも行けないのです。トム・ヴァーレンイのか細い歌声は天使の囁きのようでもあり、地獄への招待状のようでもあります。
このどこにも行けない感じがパンクだったのです。ずっと地べたに這いつくばっている感じ。トーム・ヴァーレィンは「マーキー・ムーン」でこう歌っています。
俺はマーキー・ムーンという店の前で待っている。
死ぬべきか、生きるべきか。
俺は男に尋ねる。「なぜお前は気が狂わないのか?」
「坊主、そんなに楽しむなよ。お願いだから、そんなに悲しむなよ」と男は答えた。
俺は雨の音を聴いている。
俺には違ったように聴こえる。
ひゃーかっこいい。これぞパンク、実存主義です。天国も地獄もない、神様はいないです。だからみんな黒いサングラスをかけていたのです。ここが地獄だからです。ヒッピーはその黒いサングラスをLSDで虹色にしたんだけど、結局そのサングラスも濁って黒になってしまったのです。
僕もずっと黒いサングラスをかけていました。ある日、あのトム・ヴァーレィンのか細い歌声はどこから来たんだろうと考えていたら、その声はニール・ヤングの地声なのかファルセットなのか分からない声と同じに聴こえてきたのです。そして、トム・ヴァーレィンとリチャード・ロイドのギターはニール・ヤングのペンタトニック一発のギターと一緒だと気づいたのです。
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