久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ザ・ビートルズは最初から完成していた [シリーズ「ロックの闘争」(1)]

 

昔『ロックの闘争』という電子書籍を出していたのですが、ネット上からなくなっているので、6回くらいに分けてここにもアップして行きたいと思います。昔読んだことあると思う人はすいません、でも、今読むとまた感覚も違うかもしれません、自分のロック史を語りながら、ロックがどのようにカウンター・カルチャーだったかということを書いた連載です。自分で言うのもなんでが、結構面白いと思います。

 

 


 

 

ザ・ビートルズのポートレイト

パンク、ヒップホップ、ハウス・ミュージックという3つの革命をリアルタイムで経験できたのは、すごくラッキーだった。これだけでも、もう死んでもいいんじゃないかなとも思っているのだが、死ぬ前にあの音楽的興奮を、街のざわめきを、自分なりに記録しておきたい。

自分が一番が最初に好きになった音楽はビートルズだ。今の若い人たちにとってビートルズはそんなに興味のわかないバンドなのかもしれないが、いま53歳の僕が子供の頃は、ビートルズからロックを好きになっていく人が多かった。

僕がビートルズに興味を持つようになったのは、6歳か7歳の頃、ビートルズが解散するのしないのが話題になっていた頃だと思う。解散という言葉の意味もよくわからない子供には、ビートルズ最後のゴタゴタはなかなか衝撃というか、意味が全くわからないものだった。子供だけでなく、当時は大人たちもよくわかっていなかったような気がする。ポール・マッカートニーが訴訟を起こしたり ※1 して、とっても複雑だったからだ。

ポール・マッカートニーがなぜ裁判所に訴えたかというと、それはビートルズがすごく民主的なバンドだったからである。4人が「イエス」と言わないと、物事が進まないバンドだったのだ。

彼らがアップルという会社をつくったとき、たしかそのことが契約書にも明記されたんだと思う。しかし、ほかの3人がそういう条項を無視し、悪徳マネジャーとの噂があったアラン・クラインをビートルズのマネージャーにしようとしていたので、それを阻止するためにポール・マッカートニーが裁判所に申し立てをしたのだ。会社としては多数決が通って当たり前なんだけど。このポールの提訴によって、その後、アラン・クラインをマネジャーにしていたローリング・ストーンズは金銭的にすごい損失を被ったけど、ビートルズのお金は守られた。当時はこんなことは一切語られておらず、子供心に「ポール、なんで裁判所になんか訴えたりするの。嫌い」なんて思っていた。

ちょっと調べればわかるこなのに、テレビとかも僕が思っていたことと同じようなことを言ってたね。今のワイドショーと同じで、適当なことを言っていたような気がする。もしかしたら、忖度があったとか、なかったとか、言っているのと同じように、ビートルズは解散しないと言い続けていたような気もする。だから僕はビートルズは解散していないとずっと思っていた。

 僕にとって意味のあるビートルズのアルバムは『ホワイト・アルバム』だった。なぜ『ホワイト・アルバム』かというと、いろんなオマケがついていたからである。『ホワイト・アルバム』には4人のポートレートとポスターがついていた。これらを僕は部屋に貼っていた。メンバー各自が持ち寄ったプライベート写真をアンディ・ウォーホールより前にポップ・アートをやっていたリチャード・ハミルトン ※2 がコラージュしたポスターは、いま見てもすごい。レディオヘッドも霞むくらいオシャレである。これはCDのリイシューになって、全部復刻されているんじゃないでしょうか。みなさんも買ってみてほしい。

しかし4人のメンバーのポートレートの写真はヘロイン中毒みたいな感じで、いま考えるとよくこんなポートレートを部屋に貼っていたなと思う。ヒゲヅラのビートルズは気持ち悪いと思っていたはずなのだが、 大人になったビートルズがかっこいいという意見をどこかで聞いて、 早く大人になりたいと思っていた僕も無理してそのポートレートを貼っていたのだ。いまから考えるとあのポートレートは、ヘロイン中毒になったジョン・レノンやジョージ・ハリソンへのポール・マッカートニーの当てつけのような気もする。ビートルズのどのアルバムよりも、曲が今っぽいアルバムです。

なぜ僕がビートルズに興味を持ったかという話を書こうと思っていたのに、えらく話がずれてしまった。もちろん、こんなことを6~7歳のときに考えていたわけではなくて、いまから考えるとそうだったなという話である。この『音専誌』では、当時の音楽を振り返りながら、当時の自分はどんなだったか、今の自分はどうであるか。その音楽は、過去にどうとらえられていて、今はどういう意味を持っているのか。そうした過去~現在~未来を考察していきたい。

 

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