いまは僕もよくわかってる。ボブ・ディランは言葉でビートルズを変えたのだ [シリーズ「ロックの闘争」(2)]
→前回から続く
昔『ロックの闘争』という電子書籍を出していたのですが、ネット上からなくなっているので、6回くらいに分けてここにもアップして行きたいと思います。昔読んだことあると思う人はすいません、でも、今読むとまた感覚も違うかもしれません、自分のロック史を語りながら、ロックがどのようにカウンター・カルチャーだったかということを書いた連載です。自分で言うのもなんでが、結構面白いと思います。
ビートルズのルーツを探求するが…
ビートルズのレコードは家にほとんどあった。だからビートルズのレコードは買い足さなくてもよかった。僕が毎日30円の小遣いを3か月ためて買ったのは、ビートルズがバンドを始めるきっかけになったエルヴィス・プレスリーのレコードである。初期のビートルズに一番影響を与えていたバンドはエヴァリー・ブラザーズ(注.1)なので、エヴァリーを買った方がよかったのだが、当時の日本の評論にビートルズとエヴァリーを比べて書いた評論なんかなかったと思う。ライナー・ノーツにもそんな事は一切書いてなかったような気がする。せめてバディ・ホリー(注.2)を買っていたらよかったんだけど、ロックンロールの神様エルヴィス・プレスリーを買った。しかも、RCAのベスト盤。ぜんぜん良くなかった。これだったら、ビートルズがカヴァーするロックンロールの方が全然ワイルドでフレッシュで楽しい。
エルヴィス・プレスリーのかっちょよさは、ザ・クラッシュの『ロンドン・コーリング』のジャケットの元ネタになったサン(注.3)時代のデビュー・アルバム『エルヴィス・プレスリー』を買うまで分からなかった。ロックが好きなら、このアルバムを買うことをお薦めする。ビートルズやローリング・ストーンズのメンバーがこのアルバムを持って街をうろうろし、音楽を始めた理由がわかる。
ギターにスコッティ・ムーア、ベースにビル・ブラック、ドラムにD・J・フォンタナ。メンフィスの最高のミュージシャンが最高のグルーヴを生む。メンフィスに行きたくなる。
スコッティ・ムーアは本当にファンキーなギターを弾く。ジェフ・ベックに影響を与えたというのは当たり前だが、ポスト・パンクのキリング・ジョーク(注.4)のジョーディ・ウォーカーが持っていたギターがスコッティ・ムーアと同じゴールドのギブソンのフルアコES-295なのは、スコッティ・ムーアへのリスペクトだ。バウ・ワウ・ワウ(注.5)のマシュー・アッシュマンがフルアコのグレッチを弾くのも、ストレイ・キャッツのブライアン・セッツアーではなくオリジネターであるスコッティー・ムーアのギターのかっこよさを知っているからである。クラッシュのミック・ジョーンズ(注.6)もアメリカに行ってまず買ったギターはスコッティ・ムーアと同じギブソンだった。ロディ・フレイム(注.7)も同じギターを持っていた。みんな何が一番なのか、知っているのだ。
さて、RCA時代のベスト盤だけ聞いて「プレスリーはもういいわっ。ルーツはええわ、ルーツは…」と思った僕は次に、デビューしてからのビートルズに多大な影響を与え音楽まで変えたというボブ・ディランを買おうと思った。これはライナー・ノーツにしっかりと書いてあった。でもどう影響を与えたかは書いてなかった。
いまは僕もよくわかってる。ボブ・ディランは言葉でビートルズを変えたのだ。『ブロンド・オン・ブロンド』を聞いてみてほしい。言葉は英語でわからなくても、聞いているとすごく気持ちよくなってくるのだ。ビートルズは音楽で気持ちよくさせてくれるけど、ボブ・ディランは言葉の響きで気持ちよくさせてくれる。ジミ・ヘンドリックスは、毎朝ボブ・ディランのレコードに針を落としていたそうだ。それは、トンでいる人間には、ボブ・ディランの吐き出す意味深な言葉が本当に気持ちよく入ってくるからだろう。60年代の人たちはそんな風にボブ・ディランに影響されていったのだ。
初期のボブ・ディランの政治的な部分に影響されていたのは、ドラッグをやらない若いファンやアホな評論家の意見に左右されている人たちである。この辺のことはボブ・ディランの『ドント・ルック・バック』を見ればよくわかる。楽屋で談笑するボブ・ディランとミュージシャンと、それ以外の人たち。でもボブ・ディランは若いファンをバカにはしていない。大切に扱っている。すごくかっこいい。ボブ・ディランには、初期の頃から、ビート・ジェネレーションのようなドラッギーな言葉や意識の流れがあふれている。
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