久保憲司のロック・エンサイクロペディア

オアシス『ドント・ルック・バック・イン・アンガー』 ・・・僕たちはすべてが終わった世代なんでしょう。怒っても仕方がないよと。それが今の現代の音楽の心象風景の始まりなのです

 

元オアシスのノエル・ギャラガーの来日が決まったということで、オアシスの一番の名曲であり、90年代を象徴し現在のロック、ポップ・ミュージックの原風景となっているような曲「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」の “ロック、本当はこんなこと歌ってるんですよ” です。

現在、日本で一番人気がある洋楽曲なんじゃないでしょうか?伝記映画の大成功でクィーンの「ボヘミアン・ラプソディ」の方が人気あるような気がしますが、海外のロック・アンセムNO1レッド・ツェッペリンの「天国への階段」を抜いているような気がします。

日本人になぜ「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」が人気があるかというとそれはカノン進行で作られているからです。90年代を象徴し現在のロック、ポップ・ミュージックの原風景となっているような曲を、日本人に好かれているのはカノン進行だからと書いたら身もふたもないですね。最後になぜこの曲が現在のロック、ポップ・ミュージックの原風景なのか書きますので、それまで少し辛抱してください。

カノン進行の曲は、ビートルズだと「レット・イット・ビー」です。

カノン進行の曲をやると、一発屋、これ以上いい曲はかけない症候群に陥ってしまうので、海外のアーティストはカノン進行をあまり使わないです。ビートルズも「レット・イット・ビー」一曲だけで、しかも解散間際に使うという、ポールもここで勝負しておこうと思ったのでしょうか。ソロになってからポールがカノン進行で書いた曲があるのかまだ調べてませんが、多分ないと思います。

日本はAKBとかカノン進行の曲が多いらしいですね。日本の人は恥ずかしくもなく、禁じ手を何回もやります。

海外もここ25年くらいのヒット曲はBm G D  A という四つのコードで作られていて呆れてしまうのですが。日本でいうと小室進行ってやつです。小室さんのはBm G  A D という決まった進行で作られてます。

「ベタな曲を書く」とポールを批判していたジョン・レノンはカノン進行の曲はやらないだろうとずっと思っていたのですが、『ダブル・ファンタジー』の「ウォッチング・ザ・ホイールズ」でやってました。この曲を聴いていて、これ、オアシスの「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」に似ているなと思って、コードをとってみたら、カノン進行だったのでびっくりしました。あのジョン・レノンも復活の時に、ここで一発当てないといけないなと思って、禁じ手カノン進行に手を出したんでしょう。でもポールをベタな奴と批判していたから、せっかく王道ヒット進行を使ったのにどこか控え目な曲になっています。

ジョンの話はいいですね、ノエルです。「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」を作るのに「ウォッチング・ザ・ホイールズ」を下地にしたのかとびっくりしました。メロ、ピアノの入れ方とか「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」とよく似ていますよね。この曲から90年代いや現在を代表する曲を作ったノエルは天才だと思います。

ノエル自身この事実忘れているのか「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」のイントロのピアノは「イマジン」をパクったんだよ」と言ってます。「イマジン」じゃない「ウォッチング・ザ・ホイールズ」でしょう。

「イマジン」もカノン進行の前半部分だけの2コードを繰り返して使う変形カノン進行の曲なんですが、ポールみたいにベタなことはしないぞという心意気が感じられます。

ノエルはメロディまで拝借してると思われたら嫌で、「ウォッチング・ザ・ホイールズ」のことは隠して、でもジョン・レノンから借りたということをちゃんと言いたくって、あんなこと言ったのでしょうか。

So I start a revolution from my bed
Cause you said the brains I had went to my head

というキラー・フレーズもジョン・レノンが喋っている言葉から頂いています。ジョンとヨーコさんがベッド・インというベトナム反戦運動をしていたホテルの部屋にあった録音テープを盗んだ男が、ノエルにそのテープを売りつけ、それを聴いたノエルがこれだと思ったそうです。そのテープには記者がジョンに「お前のやっている反戦運動はロック・スターの傲慢だ」とでも質問しているのでしょう。ジョンはその質問に「みんなが傲慢だというから、革命をベッドから始めているんだよ」と答えていたのでしょう。この歌詞はそういう意味です。

でもこのキラー・フレーズが、後に自分たちのベッドルームのPCで音楽を作って、ネットを通して配信していく00年代、10年代の若者たちの思いそのものとなったのです。

 

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