『ザ・スミス』全曲解説[後編]・・・モリッシーは弱者の代表だったのです。一緒に戦う仲間が現れたと思ってスミスを初めて見た日のことを僕は一緒忘れないでしょう
スミスの全曲解説前編が評判よく、嬉しいです。続きいかせていただきます。
その前に前編でスミスというのはあの当時世界で一番かっこいいバンドだったと書きましたが、スミスが登場するまで世界一かっこいいバンドはシアター・オブ・ヘイトだったのです。モリッシーが登場するまでファルセットで歌うパンク・バンドなんてシアター・オブ・ヘイトしかいなかったんです。モリッシーと一緒にやっていたビリー・ダフィーは、シアター・オブ・ヘイトに入るんですよね。シアター・オブ・ヘイトとスミスのつながりを追求する人なんて誰もいないですけど、実はなんとなく同じ地平にいたバンドなんです。
もう一つ、今のモリッシーは絶対ファースト・クラスに乗る人ですが、あの頃のモリッシーはイギリスで一番安いメガネをかけていたのです。イギリスには貧乏な人でもメガネがかけれるように健康保険で買えるメガネがあるんです。今は百均でもメガネが買える時代ですから、国が作るより安いメガネが簡単に作れる時代かもしれませんが、当時は違ったのです。資本主義ってすごいですね。と加速主義みたいなことを言ってしまいますが、そんな世の中だからモリッシーもネトウヨっぽく見えてしまうのかもしれませんね。でもあの頃のあのメガネはすごい社会主義的なメガネだったんです。そんなメガネをかけるアーティストなんてそれまで誰もいなかった。それをかっこよくかけるモリッシーはそれはそれはかっこよかったです。そして、耳には補聴器をつけて、自分は弱者の代表なんだぞといいながら、ステージで踊り狂い、歌っていたのです。
4.「プリティ・ガールズ・メイク・グレイヴズ」
“プリティ・ガールズ・メイク・グレイヴズ”というキラー・フレーズはジャック・ケルアックの小説『ザ・ダルマ・バムズ』から。ジャック・ケルアックの洒落たフレーズは、欲望が全ての原因だからと、女性を断ち切ろうとしている主人公の一人が、綺麗な女性を見たらお墓に入ったような気分になるという意味で使われています。
モリッシーの場合は何なんでしょね。女性をセックスの対象としてみたくない、可愛い女性とは永遠に普通の友達でいたいのに、そういう女性に限ってセックス好きなんだよね、みたいな感じでしょうか。歌詞で言うと
“別の男が、彼女の手をとったら
彼女の顔には馬鹿笑いが広がるんだ”
でしょうか
前編で書いた「ミズラブル・ライ」と同じことを歌っているんだと思います。ジョニー・ロットンの名言でありパンクの一つのテーマであった「セックスは退屈だ。他にやることがあるだろ」と同じことなんでしょう。そして、モリッシー流に言うなら男、女として見るなよと、
“I’m not the man you think I am ”
なのでしょう。
ジャック・ケルアックの『ザ・ダルマ・バムズ』と同じテーマですね。あらゆる個性が失われ、驚異が死んでしまった現代社会を離れ、文明の源流に行き、その暗黒の奥底にひそむ神秘を探す物語と、モリッシーも恋とか愛とかそんな小さいことにこだわらずもっとほかにやることがあるだろと歌っているのです。
5.「ザ・ハンド・ザット・ロックス・ザ・クレイドル」
「リール・アラウンド・ザ・ファウンティン」とこの曲がモリッシーの小児性愛をあらわした歌詞だと当時そんなバカな批判があったけど、この2曲のどこに小児性愛があるのか、全くわからない。
のちにこのタイトルを使った「ゆりかごを揺らす手」と言うサイコスリラー映画が作られているから、普通の人が聴いたら気持ち悪い曲なんでしょう。
何もかもやる気がなくなった青年が部屋の中で頑張って生きていこうとしている気持ちを、幽霊を怖がる少年の気持ちにして歌っているとしか思えないんですけど。
西洋社会は、生まれた時から子供を子供部屋に一人にさせて「すぐに大人になれ」と教える社会なので、こんな曲は子供すぎると思われるのかもしれないけど、誰もがこんな気持ち大人になってもあるでしょう。
人間は本当はなかなか大人になれないんですよ。中二病風に言うなら、「大人って何? 」ってことです。
この歌のオチは“お母ちゃんのために頑張らないと”と歌ってます。全てが嫌いなモリッシーも母だけは好きなんですよね。
“泣かないで
外は嵐が吹き荒れと幽霊が一杯いるけど
でもこの神聖な場所には入ってこれない
誰も君の心には入れない”
“僕の人生は終わってしまって、僕は嘘をつかなければならない”
と歌っていますが、モリッシーは頑張ったのです。
6.「ジス・チャーミング・マン」
オリジナル・アルバムには入っていないですけど、今聴けるやつには普通に入っているので、ここにいれました。スミスを代表する曲ですし、でも何を歌っているのかよく分からない曲です。
詩の内容は、自転車に乗って丘を走っているとパンクしてしまって困っていると、感じのいい紳士が車に乗せてくれると言う50年代の映画に出てきそうなお話です。「リターン・ザ・リング」ってローレンス・オリヴィエとマイケル・ケインの映画『探偵スルース』からのフレーズだけど、その紳士は「リターン・ザ・リング(離婚しろ)」と言っているから、パンクして困っている青年は結婚生活に悩んでいるんでしょう。それで丘の上まで一人自転車を漕いで行ったのでしょう。
モリッシーの周りで結婚生活に悩んで自転車によく乗っていた人って、ジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーチスしかいないんですけど。この曲、イアン・カーチスの話だったら面白いですね。絶対ないですけど。
スミスの中で唯一ゲイっぽい感じを出している曲かもしれません。当時音楽シーンでゲイのことを前面に打ち出した曲はまだなかったのです。後にゲイの少年の物語を歌にしたブロンスキ・ビートの「スモールタウン・ボーイ」が大ヒットするように、そういう曲を作れば話題になって絶対売れるということはモリッシーもジョニー・マーも分かっていたことだと思います。誰が一番最初にそういう曲をやるかっていう雰囲気はあったと思うのです。モリッシーはそういうことよく分かっていたんじゃないでしょうか、「パニック」とかと同じ確信犯的な曲だと思います。
7.「スティル・イル」
“イギリスは僕のもの、イギリスは僕を養わないといけない”
という、これ以上最高のフレーズはないですよね。ネトウヨやすぐに「自己責任」とか言う新自由主義者風の奴らに聴かしたい、これぞリベラルを代表するスミスの楽曲でしょう。
「お前みたいなフリーライダーが日本をダメにするんだ」というやつにモリッシーは
“なぜイギリスはそうしないといけないかと訊いたら、
君の目にツバを吐きかけてやる”
と歌っていたのです。
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tags: The Smiths ザ・スミス
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