久保憲司のロック・エンサイクロペディア

パティ・スミス『ホーセス』  次に僕らの世界からノーベル文学賞をとるのは間違いなく彼女だろうと思ってます [全曲解説 後編]

前回よりつづく

 

パティ・スミスがLGBT、フェミニズム、ライオット・ガールに与えた影響について書くのは、また今度ライオット・ガールの時に書くとして、僕にとってパティとは『イースター』の脇毛でした。

パティにとってその脇毛は、アイリッシュ系でカソリックだろうから、ただ体にカミソリを入れることをよしとしないということだけなのかもしれませんが、元オアシスのノエル・ギャラガーの眉毛が繋がっているのもそういうことなんです。日本みたいに散髪屋ですぐに産毛を剃るようなことはしないんです。この頃はさすがにそうでもなくなってきてるのですかな。今みんなアソコの毛を剃りますからね。

パティはちょうど、そんな剃る剃らないの間に登場したんです。アソコの毛は不潔だと外国の人が言い出し始めた頃に。日本のAV女優黒木香が脇毛を見せて登場したのは『イースター』の影響があったと思います。監督の村西とおるが『イースター』のジャケットエロいと思ってたんじゃないですかね。それまで誰も脇毛がエロいと思ってなかったのに。まだあの頃はジャケットにエロを求めるというか、売れる材料としてエロを持ってくる時代でした。

黒木香の脇毛は上野千鶴子に「性的自己形成の根底で価値観を変えられない女性から共感を呼ぶ存在」と評されましたが、パティの場合はこれが私なのよと言っていました。黒木さんもそうだと思いますけどね。アンダーヘアーのメタファー、恥ずかしい部分を見せて喜ぶ、恥ずかしくない、いや恥ずかしいというプレイだったと思うのですが。というかただのビジネスですよね。パティもそうでしょう。じゃパティはなぜアーティストになれて、黒木さんは芸能人だったのかというような話も今度またしていきたいのですが、まずは『ホーセス』全曲解説の続きを。

 

 

4.「フリー・マネー」

子供の頃からこの曲が好きでした。社会主義みたいなことを歌っているのかなと思ってました。お金から自由になる、もうお金のことなんか気にせずに生きていけることを願う歌なのかなと。

「スター・トレック」で過去にいったエンタープライズ号が、現在の人間たちと出会うという話がありました。

現在の人間が、未来からきたカーク船長に「お金ってあるんですか?」とききます。カーク船長の答えはもちろん「お金ってなに?」です。僕たちはあーやっぱり未来にはお金というもんはないんだなと思うのです。僕も未来はきっとそうなるだろうなと思ってます。

 

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