久保憲司のロック・エンサイクロペディア

『ニューヨーク・ドールズ』 世界一誰よりも自由にギターを弾いていたジョニー・サンダースはこうやってあっけなく死んでしまったのです

 

前回はAC/DC最強のギターリスト、マルコム・ヤングのことを書いたので、今回は僕にとって一番かっこいいギターリスト、ジョニー・サンダースについて。

生きている時は本当にめんどくさい、おっちゃんやなと思ってました。ツアー中は「俺はエビとアイスクリームしか食わないんだ」と言うから、ご飯行く時はエビがある店ばっかり気をつけて探していたのですが、つい最近ジョニサンを呼んでいたスマッシュの南部さんから「あいつカルボラーナしか食わなかったんだよな」と言う話を聴いて、「あいつ、カルボーナも食えるんか、選択肢広がるじゃん」と思っている今日この頃です。

でももういないんですよね。

ウィルコ・ジョンソンも食にはうるさかった。日本にいる時はカレーライスしか食いませんでした。イギリスではスパゲッティ・ボロネーズしか食いません。今はもっと食の幅が広がっているかもしれませんが。知らない店にいって、知らない食べ物を食うのが怖いんだと思います。

こう言うの食にうるさいとは言わないか。偏食家という奴ですね。僕も一緒なので二人の気持ちがよく分かります。

小室哲哉さんも一緒です。魚、野菜がダメなそうで、好物は牛丼、ファミレスのハンバーグだそうです。

僕もそうなんですが、こういう人たちって、知らない味のものを食べるのがストレスになるんです。食べたいと思った時の味が思い浮かばないと、食べる気にならない。食ったことのない珍しい食べ物を、「おっ、うまそうだな」と言いながら食う人間を見てると、こいつ気が狂ってるのかと思います。

ジョニー、ウィルコ、小室さん、色んな音楽に貪欲そうで、実は自分の好きな音楽の幅が狭いのかもしれません。そんな人間だから、人に興味を持ってもらえる音楽を作れるのでしょう。

ジョニー、ウィルコなんかまさにそうですよね。あのギター、あのリズム、あの歌を聴けば、ジョニーだ、ウィルコだと分かります。

幅広い音楽を作っているような小室さんも、実はあるコード進行、あるメロディの歌ばかりなのかもしれません。

でもそれは本当に自分の心から生まれている音楽なんです。

ジョニーのギターがどこから生まれたのか僕はよく分かりません。でも、それは本当に彼の心と体から生まれている音なのです。

技術的な説明をすると、アンプも全部フルテンにして、アンプの付属のリヴァーヴも全部上げて、そしてグィーンと弾いたらジョニーの音になる。

いや、ならないです。普通の人が轢いたら、ただのうるさい音だけになります。でもそれをジョニーが弾いたら、なんか心地よい、興奮する音楽になって聴こえるのです。

ジョニーと一緒にいた時、もっとジョニーがどうやってギターを弾いているのか、もっと勉強しておけばよかったなと思います。

でもジョニーといた頃はジョニーはギターのことは全然無頓着だったような気がします。

あの頃のジョニーはドラッグしか興味がなかったような気がします。とあるクラブで、ジョニーがコークが欲しいと言った時、「ロンドンのクラブなんかそんなにドラッグないよ」と僕がいうとジョニーはとある女の子を指して「あいつが持っている」というので、「へぇー、そう」と僕が言うと、「お前、あいつに売ってもらえるか」訊いてこいと言うのです。

 

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tags: Jonny Thunders New York Dolls Wilko Johnson

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