久保憲司のロック・エンサイクロペディア

『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』 エルヴィス・コステロが「ケンジ、音楽で革命が起こったりしたことがあるんだぞ」と。そのあと本当に・・・ [全曲解説(前編)]

 

昔エルヴィス・コステロと食事をしてた時、突然「ケンジ、音楽で革命が起こったりしたことがあるんだぞ」って言い出して、これまた大きなことを言うなと思っていたのですが、この後、本当に身近な世界で音楽によって革命が起こったことがありました。

日本ではビロード革命と呼ばれるチェコスロバキアの革命です。海外ではヴェルヴェット革命と呼ばれていて、ヴェルヴェット生地のように滑らかに革命が行われたことから、そう呼ばれているのですが、実はこれダブル・ミーニングでして、このヴェルヴェットって、ヴェルヴェット・アンダーグランドのことでもあるのです。

革命成功後首相になったヴァーツラフ・ハヴェルが、首相になる前、民主化運動で捕まった時、刑務所に持っていっていたのが、このレコードなのです。ドラッグを買う歌や、ヘロインをやって神様の子供になった気分を味合う歌で、よく革命の起爆剤になったと思うかもしれませんが、革命後チェコスロバキアに招待されたヴェルヴェット・アンダーグランドのルー・リードはこう説明してくれてます。

「ヴェルヴェット・アンダーグランドは自由に好きなことを歌うことを目標としたバンドだ。その自由さが革命の手助けになったのではないか」

こうも言ってます。

「音楽が世の中を変えれるかって、それは無理だ。でも音楽は人を変えられる。その変わった人が人を動かすことは出来る」

そんなヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビュー・アルバムの全曲解説をやりたいと思います。

 

 

1.「サンディ・モーニング」

こちらを参照してください。

 

 

2.「アイム・ウェイティング・フォー・マン」

現代のロック、ポップ・ミュージックに一番影響を与えた曲です。ここからパンクが始まったと言っていいと思います。普通のR&Bを下地にしたような曲ですが、一体なぜこんな時代を変えるような音楽になったのかよく分からないですが、一番の理由はベースのジョン・ケージの現代音楽的手法とR&Bが合体したことにあると思います。キンクスの「ユー・リアリー・ガット・ミー」と並ぶブルースとロックンロールの誕生以降生まれた突然変異の名曲です。

デヴィッド・ボウイのアルバム『ジギー・スターダスト』の何曲かはこの曲を下地としています。そして、ブライアン・イーノの「ニードルズ・イン・ザ・キャメルズ・アイ」などは完全に同じテイストで作られています。後に時代を作るような人たちがなぜここまで影響されたのか、彼らの耳にはヴェルヴェットの音楽は僕らが初めてパンクを聴いた時のような衝撃だったのでしょう。歌詞はハーレムにヘロインを買いに行く歌です。売人はいつも遅れてくるという内容などウィリアム・バロウズの『裸のランチ』に同じ内容のことが書かれています。ルー・リードは「この曲はヘロインが26ドルだったという嘘以外は全部真実だ」と語っていますが、実体験というよりバロウズの小説を歌にした曲と考える方が正しいでしょう。

あとどうでもいい話ですが、僕の知っている売人は遅刻したりしません。だからバロウズの小説も虚構のような気がしてました。どんな人間よりも真面目で、注文なども紙には買いたりせず、全て頭の中に入れていて、お寿司屋さんみたいだなと思ってました。お寿司屋さんのあの記憶術、実は適当って説ありますけどね。

 

3「ファム・ファタール」

アンディ・ウォーホールから「イーディ・セジウィックの曲を書くべきだ」と言われて書かれた曲です。ルー・リードはイーディのことを何とも思ってなくって、「どんな歌書けばいいんだよ」とウォーホールに聴いたら「イーディはファム・ファタール(男をダメにするような女)じゃない」ということでこのタイトルとなりました。ボブ・ディランにもイーディについての歌「レオパード・スキン・ピル・ボックス・ハット」もあります。

ディランはウォーホールに言われることなく、イーディは金のある男にどんどんついていくよねとちゃんと歌ってます。「ファム・ファタール」より彼女が新しく買った豹柄のピル・ボックス・ハットについてからどんどん話を転がしていくディランの歌の方がレベルが高いですかね。センチメンタルにしているルー・リードの方がすごいんでしょうか?それともニコが歌っているからセンチメンタルというか、なんかの象徴的なもののように感じてしまうのか?ルー・リードは元々はブリル・ビルディングで商業作家を目指していた人ですから、元々は三文小説のようなベタな歌だと思うんですけど、すごい化学変化が起ったような気がします。こんな歌です。

 

彼女がやってきた
足元気をつけたほうがいいぜ
彼女は君の心を真っ二つにするから
本当だよ
彼女の嘘くさい
彼女は君を持ち上げて、それで落とすんだ
バカだな

みんな知っているよ
彼女が魔性の女だって
彼女が君を喜ばすためにすることは
彼女のちょっとしたイジワルは
彼女は魔性の女
彼女の歩き方を見てみろよ
彼女の話し方を聴いてみろよ

君は37番目だよ
彼女の手帳にそう書かれてる
見てみな
彼女は君を困らせるために笑う
お前バカだな。
彼女はストリートの人間で、お前は子供だよ
初めからやられてるよ
彼女はお前をバカにしてるよ、本当だよ

彼女が魔性の女だってみんな知っているよ

 

 

4.「毛皮のヴィーナス(ヴィーナス・イン・ファーズ」

自分はマゾじゃないのでまったく分からないのですが、マゾの人だったら、こういう曲を流しながら、女王様におしりの穴を攻められたりしたら興奮するんですかね。それとももうこういうの古いんですかね。今SMプレイの時にどういう曲を流しているのか気になります。でも退廃な感じはありますよね。ヴェルヴェットはこの感じを出すためにほとんどの曲はギターのチューニングを一音下げでやってます。でもこの曲は半音下げだけで、一弦だけさらにもう一音下げてC#にしてます。でこのC#の音がドローンというかインド音楽ぽくずっと鳴っている感じがこの曲の気だるさを生んでます。

 

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