久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ルー・リード『トランスフォーマー』 「ワイルドサイドを歩け」はアンディ・ウォーホールの取り巻きの連中のことを歌にしてます (ルー・リード) [全曲解説(中編)]

 

ルー・リード『トランスフォーマー』全曲解説の中編です。

前編より続く

 

「ヴィシャス」という曲はゲイの少年(青年でも大人でもいいんですけど)が、ストレートの少年に恋をする歌で、その子もゲイの友達の気持ちはよく分かっていて、愛したりしないくせに、気持ちがいいからフェラチオとかはやらしてあげるゲイの少年をもて遊ぶ意地悪(ヴィシャス)な少年の歌と解説しました。

 

(君がやってることは)花を鞭代わりに僕を叩くようなもんだよ

 

という名フレーズはまさにそういうことだよと。

ギターのミック・ロンソンはその表現を音にしようとと、ギュワーンという音で鞭の音を再現しているのですが、笑ってしまいますよね。メタファーを音で再現したら、あかんですよね。彼もこの歌がどういう歌なのか分かっていなかったんだなと思いました。でもこのアルバムがリリースされた72年はまだゲイとストレートの微妙な関係なんて誰も分かっていなかったから分かんないですよね。

後にセックス・ピストルズのメンバーになる二人の少年はこの歌の意味をよく分かっていたんだなと感心しました。シド・ヴィシャスという名前はセックス・ピストルズのヴォーカルのジョニー(ジョン)・ロットン(ライドン)が同級生だったシドにつけた名前ですと、前回書きました、もう少し詳しく書くとヴィシャスという名前はジョンが飼っていたハムスターの名前です。

ジョンがなぜヴィシャスって名前を付けたのか分からないですけど、「お前はシドに似てるな、でもお前はシドみたいに俺の本当の気持ちが分かってくれないヴィシャス(意地悪)だな」と名付けていたらこれまた映画『モーリス』の世界でめっちゃ萌えます。

今は太ったただのおっさんになっているジョンですけど、昔は本当に痩せ細った青白い知的な青年でかっこよかったんですよ。そして、パンクになる前のシドはデヴィッド・ボウイに瓜二つ(髪もボウイと同じカーリー・ヘアー)でした。

シドが始めて作ったバンドの名前もジョンが名付け親で、その名前がフラワー・オブ・ロマンスでした。当時はなんでこんなヒッピー臭い名前をつけたのか全く分からなかったのですが、ルー・リードの「ヴィシャス」をちゃんと聴いたら、あー俺(ジョン)とシドの関係はフラワー・オブ・ロマンスだったんだなと思ってしまいました。

二人が子供の頃、地下鉄の通路でバスキング(お金をもらうために演奏するやつね)してたんですけど、ジョニーはバイオリンを弾いてました。PILの最高傑作、パンクが行き着いた究極の地平線『フラワー・オブ・ロマンス』ってまさにそんな感じの音楽なんです。ジョニーもバイオリン弾いてます。音楽のことをよく知らない素人がガチャガチャ遊んだようなアルバムです。パンクやポスト・パンクらしからぬ名前を付けたのは亡くなった友達のことを思って、『フラワー・オブ・ロマンス』って名前をつけたのは、「昔、お前とこんな感じで音楽作ったよなと」とシドと遊んでいたころを思い出したからのような気がします。

 

 

二人が住んでいたフィンズベリー・パークに僕も住んでいたんですが、いつも地下鉄に乗る時、ここで二人バスキングやってたのかなと思ってました。ジョイ・デヴィジョンの地下道の有名な写真もフィンズベリー・パーク駅で撮られました。

『フラワー・オブ・ロマンス』の頃には脱退してましたが、ベースのジャー・ウォブルもジョンとシドの同級生で、三人ともジョンという名前で、本当にこの三人は悪ガキで、スリー・ジョンズとバカにされていたのです。

ジョンも変わっていますね。やったバンドが二つとも同級生とやっていたって、でもそういうのが正しいのかもしれませんね。

前振りはこの辺にして『トランスフォーマー』全曲解説の続きです。

 

4曲目「ハンギング・アラウンド」

 

『トランスフォーマー』はドラッグやってグチャグチャというようなアルバムじゃないと書きましたが、まさにそういうことを歌っている歌がこちらです。

こんな感じの歌です。

 

ハリーは金持ちの青年だったけど
神父になるために
亡くなったばっかりのお父さんのお墓を掘りおこすような男

で神秘的な心でタロットカードで調べた
そして、彼がみつけたのは

ジェニーは甘やかされて育った
彼女は何でも知っていると思ってて
彼女のタバコはメンソールで
玄関でセックスをするような子

でも、彼女は僕のタイプじゃない
呆れたりもしない
動物みたいな奴かなと思ってる
そんな感じ

まだ君、この辺にいるんだ
僕のこと見つけてほしくなかったな
だって君はまだそんなことやってるんだろ
僕がもう何年も前にやめたことを
大丈夫?
アハハハハ

キャシーはちょっとシュールだった
足の指は全部塗って
顔には矯正ワイヤーがついて
鼻にしっかり固定されてた(羊たちの沈黙か)

彼女がやっと喋った時は
その鼻声で眼鏡が壊れて
彼女が部屋にいる間は誰もタバコが吸えなかった

天使の歌声が聴こえてきて
電話機に手を伸ばして
ナイフで電話を抜き取り
田舎で長距離電話をかけた

でもやりすぎて
電話局にエンジェル・ダスト(ドラッグ)を撒き散らす
誰も君の幸せを願っていないんだ

あー君は僕の周りにいたんだね
でも、僕のこと見つけてほしくなかったな
だって君はまだそんなことやってるんだろ
僕がもう何年も前にやめたことを

まだいまだにこの辺をうろうろしてるんだ

 

トゥルマン・カポーティーの小説読んでいるみたいでしょ。

 

5曲目 「ワイルドサイドを歩け」

こちらはもっとトゥルマン・カポーティーの小説のようです。アンディ・ウォーホールの取り巻きの連中のことを歌にしてます。「それだけで面白い歌になるかと思った」とルー・リードは語っています。トゥルマン・カポーティーの「叶えられた祈り」のようにそういう人たちをバカにしてます。皮肉屋ルー・リードだからあたり前なんですけど、サビ(英語でいうとコーラスですか)の“あんたワイルド・サイドを歩かなあかんよ”というのも愛情込めて歌っているんじゃなく、一番最初に描写されるホリー・ウッドラーンが若い子に説教するフレーズをルー・リードが聴いて、バカだなと思ったフレーズを使っているんです。

ヤンキーの姉ちゃんとかスナックのママとかが教訓たれる時に“お前が出来てないのに、それ言うか”というあの感じです。でも歌にするとどこか愛情があるように、“あんたら頑張りや”と聴こえてくるのが不思議です。もちろんルーはこの人たちを愛してたんでしょけど、歌ってこうやってヒットするんです。

この歌に出てくる人はみんなもう死んでしまっています。ホーリー・ウッドラーンは結構長生きしました。2015年に69歳で亡くなってます。歳とってからも綺麗なおばあちゃんだったので、なんか嬉しかった。

 

ホーリーはマイアミから来た
ヒッチハイクでアメリカ横断
その途中で眉毛を抜いて、足を剃って
彼は彼女になったんだ
彼女が言うには「ヘイ、ベイビー、ワイルドサイドを歩かないとだめよ」
「ハニー、ベイビー、ワイルドサイドを歩かないとだめよ」と言ったんだ

 

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