久保憲司のロック・エンサイクロペディア

デヴィッド・ボウイ『ジギー・スターダスト』 世界は突然終わるのでなく、めそめそと終わるんだということをここまで見事にした歌があったでしょうか [全曲解説(1)]

 

一大コンセプト・アルバムのようでコンセプト・アルバムでない傑作アルバムがデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』です。一番似ているアルバムといえばインタラクティヴなロック・オペラを目指したザ・フーのフーズ・ネクストでしょうか。

 

 

ザ・フーがロック・オペラの傑作トミーを作り、そのお披露目ライブをロイヤル・アルバート・ホールでやった時、ザ・フーのギターリスト、ピート・タウンゼントの年の離れた弟サイモン・タウンゼント(現在ザ・フーのセカンド・ギターリスト)の子守りをしていたデヴィッド・ボウイがライブ終わりで、弟とボウイが楽屋に入って来て、二人揃って「僕、こんなアルバム作る」と言ったのはとっても微笑ましいエピソードですが、これで『ジギー・スターダスト』が本当にロック・オペラなアルバムだったら、完璧なことなんですけど、ボウイは結局最後まで、『トミー』に匹敵するロック・オペラなコンセプト・アルバムを作れなかった。

 

 

ジョージ・オーウェルの小説『1984』のロック・オペラ・アルバムを作るぞと始めたけど、ジョージ・オーウェルの奥さんに許可をもらえず作ることが出来ず、『ダイヤモンドの犬』というアルバムになった。もし小説『1984』のコンセプト・アルバムを作れてたら、ジョージ・オーウェルとウイリアム・バロウズをミックスした最新のSFになってたんでしょうかね。

 

 

ということなのですが、『ジギー・スターダスト』『ダイヤモンドの犬』『トミー』『フーズ・ネクスト(ライフハウス)』のテーマはロック・スターが救世主となりえるかというのがテーマです。

デヴィッド・ボウイの魅力ってこれですよね。僕にとってボウイはずうっと救世主でした。

『トミー』はロック・スターの代わりに、ピンボールのチャンピンオンが救世主となるのですが、この設定そんなアホなって感じですけど、eスポーツのプロゲーマーがコンピューターと一体化して、世界を救う話とかつくれそうですよね。

ピンボールのチャンピンオンが救世主になるって、すごい設定考えたなと思うのですが、これは偶然で、『トミー』のデモ・テープを一番最初に聴かした評論家ニック・コーンが、当時ピン・ボールにハマっていて、彼から評価を得るために主人公をピンボールの選手にしたのです。

当時そんなにピンボールが流行っていたのかとびっくりしますが、映画『トミー』を観るとすごいいいシーンなのです。現役チャンピオンがエルトン・ジョンで、トミー演じるロジャー・ダルトリーがエルトン・ジョンを打ち負かし、大盛り上がりするんです。

ちなみにこの評論家の書いたロック小説「アイ・アム・スティル・グレイテスト・セイズ・ジョニー・デ・アンジェロ」に影響されてデヴィッド・ボウイはジギー・スターダストを考えるのです。この小説のモデルとなった人物がクラッシュもカヴァーした「ブランド・ニュー・キャデラック」のヴィンス・ティラーです。LSDで頭がおかしくなって、自分には予知能力があると思ったイギリス産ロカベリー・シンガーです。

 

 

ニック・コーンのもう一つの偉大な功績と悲劇は『ニュー・ヨーカー』に『トライバル・ライツ・オブ・ザ・ニュー・サタディ・ナイト』とい嘘記事を書いて、それが映画『サタディ・ナイト・フィーバー』の原案となって、世界中をデイスコ・ブームにしたことです。この記事は60年代のモッズ少年が、もしブルックリンに現れたらどうなるだろうという妄想から書かれているのが興味深いです。60年代のモッズが70年代だったらディスコになったということなのでしょう。で、80年代はレイヴが生まれ、それが今もずっと続いているわけですから、不思議ですね。

 

 

救世主に話をもどしますと、まだこの頃はロック・アーティストが救世主になると思われていたというか、アーティスト側からはいやロック・アーティストは救世主じゃないからという告発みたいなアルバムが『トミー』や『ジギー・スターダスト』だったと思うのです。

ピートもそうなんですけど、デヴィッド・ボウイの一番のメッセージというのは僕ら救世主じゃないよ、君ら大丈夫、僕何も出来ないけど、君のことを思っているよだと思うのです。そうやって『ジギー・スターダスト』を聴くとオツかなと思います。

だから「5イヤーズ」という曲から始まるわけです。世界は一瞬にして終わるのじゃなく、5年後に終わるんだよと、これって一体なんなのかなと思うんですけど、これって僕たちは5年もしたら大人になるんだよ、今はロックとか聴いているけど、卒業(世界は終わってしまうんだ)してしまうだよ、でもその間、僕は君たちをしっかり愛してあげるからね。というメタファーなじゃないかと、そして、愛の歌「ソウル・ラブ」につながっていくんじゃないかと。

 

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tags: David Bowie The Who

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