久保憲司のロック・エンサイクロペディア

『Bringing It All Back Home』 ボブ・ディランは、誰よりも早くLSDをやって、そのヴィジョンが見えていたのです [全曲解説(2)]

前回よりつづく

 

前回難解とされる「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」の完全訳をやったのですが、ディランが自分のことを歌っているという視点で訳せばどういうこと歌っているのか、よく分かったと思うのですが、どうでしょう? こんな感じでボブ・ディランの名盤『ブリング・イット・オール・バック・ホーム』の全曲解説やっていきたいと思います。

 

 

『Bringing It All Back Home』ヤバいエレキの音がなっていますが、エレクトリック・ギターの音が変わろうとしていたのです。 ロックが誕生しようとしていたのです [全曲解説(1)]

 

2曲目「シー・ビロング・トゥ・ミー」。

ボブ・ディランの代表的なラブ・ソングのひとつですが、これはSheをIに変えたらこの時期のボブ・ディランの気持ちを歌った曲そのものです。

俺は必要なものをすべて手に入れたアーティスト
俺は振り返らない
俺は夜から闇を取り去ることが出来る
そして、昼を黒く塗りつぶせる

後の奥さんとなるサラのことを歌った歌とされてますけど、こうやって考えるとね、違いますよね。

普通は「シー・ビロング・トゥー・ミー」(彼女は俺のものだ、所有物だ)なんてフェミニストが怒るようなこと普通は歌わないです。当時はこれをラブ・ソングだと評して何の問題もなかったくらい、ポップの世界って、どれだけマッチョの世界だったのでしょう。

ボブ・ディランをフォークの神様、若者の代表としようとするフォーク界への反発みたいな歌です。俺は俺だ、みたいなまさにパンクな歌です。

 

3曲目「マギーズ・ファーム」はまさにそういう歌です。

「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」でも出てきたフォーク界の重鎮マギーの所ではもう働かないぞって意思をロックン・ロールとブルースを融合させたようなハードな演奏で歌っています。

4曲目はボブ・ディランの名ラブ・ソングであり、一番難解な曲「ラブ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット」です。

数学のことが分からないと分かんないですかね。ラブからゼロ引いて、ノー・リミットで割るとどういう答えがあるのでしょ、歌の中に答えはあるんですかね?

歌詞的にはこれまでの彼の「風に吹かれて」「激しい雨」に近いです。伝えたいことは簡単なメッセージなのに、難しく歌って何を歌っているのか、分からなくしているという歌でしょうか。

 

 

この歌は、ディランがLSDをやって、真実を得たみたいな歌なのでしょう。LSDをやると、みなさん、神を見たり、世の中の真実が見えたり、自分が世界の駒の一つなのだ、世界は全て繋がっているというビジョンが見えたりします。それを一番ビジョン化しているのが、ヒッピー思想の原型、そしてシリコン・バレー思想の中核となったスチュアート・ブランドの雑誌ホール・アース・カタログの表紙で使われた地球の全景です。

 

 

スチュアート・ブランドに言われるまでNASAは地球の全体を撮った写真を発表していませんでした。どこの馬の骨とも分からないスチュアート・ブランドから「地球全体を撮った写真あるだろ、それをすぐに発表しろ」というような気が狂ったような電話が毎日かかってきて、NASAはうっとおしいなと地球全体の写真を公開しました。NASAは地球全体を撮った写真とか綺麗と思ってなかったのです。

LSDをやって地球全体を見たような気になっているキチガイしか、あの地球全体が映っている写真を綺麗と思ってなかったのです。宇宙飛行士も「地球は青かった」って感動しましたけど、地球全体を見て、「ヤバいよね」って誰も思わなかったのです。いや、思ったのかもしれませんね、初期の頃に宇宙にいった宇宙飛行士はLSDをやったヒッピーのようにスピリチュアルに向かう人が多かったのはそういうことかもしれませんね。

NASAも気持ち悪かったでしょうね。NHK党の立花さんみたいな嫌がらせのような電話が毎日かかってきてたのんですから。絶対「またキチガイから電話かかってきてるぜ」って言いあってたんでしょう。地球全体が見渡せたなんて思う奴はピンク・フロイドの『ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン』とかウォーター・ボーイズの「(ユー・ソー)フォール・オブ・ザ・ムーン」などこかおかしな奴です。「(ユー・ソー)ザ・フォール・オブ・ザ・ムーン」と「ラブ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット」は同じことを歌っています。

僕の愛する彼女は沈黙のように語る
理想も暴力もなく
彼女に忠実だと言う必要はない
彼女は真実だ 氷のように、火のように
人々はバラを運ぶ
時間ごとに約束を交わす
僕の愛する彼女は花のように笑う
ヴァレンタインでも彼女の愛は買えない

彼女とは何か、神なのでしょう。
ラブ引くゼロを限界なしで割った答えはラブ(ゴッド)なんでしょう。

マーティン・スコセッシの映画『沈黙-サイレンス』も同じテーマです。

 

 

こんなに僕は神に祈りを捧げているのに、神はなんで、僕に語りかけてくれないんだ。そして最後に納得するのは沈黙こそ神なのだ。信仰心というのは自分なのだ。どれだけ神を裏切ろうとも、また神を必要とするなら、それでいいじゃないか、神とは自分の信仰心なんだから、自分がどれだけ神を愛しているか、神から愛されているか、そんなことどうでもいいんだと、日本に布教に来た主人公は、日本人の信仰心のいい加減さを、日本は沼だと表現していたのです。そして、それが本当の信仰心なんだと気づくお話でした。

LSDをやっている時は神と対話出来るのに、なんでシラフの時に神は僕に語りかけてくれないんだ!そうだインドに行ったら、シラフでも悟れるんじゃないかと考えたのがビートルズです。メンバー全員で行きますからね、統一教会もびっくりな一体感です。ディランはインドに行かなかったですが、自然で(LSDも自然の成分ですけど)、悟れるものがないか、もっと神に近づけるものがないかと、メキシコのオアハカに神の肉体と言われ千年以上も宗教儀式に使われスペインに征服されてからは先住民だけが“大いなるもの”に近づくため密かに使っていたマジックマシュールームをやりにいってます。

ディランも色々試したけど、ダメだなと気づいてたんでしょうね。福音派の方に流れていくんです。今から考えると、めっちゃネトウヨやんって感じなんですけど、この頃のディラン実はいいです。『スロウ・トレイン・カミング』の「アイ・ビリーヴ・イン・ユー」はディランを代表する曲のひとつです。シネイド・オコーナーはこの曲に命を救われたと告白しています。U2のボノもこの時期のディランのアルバム『ショット・オブ・ラブ』をフェバリット・アルバムにあげています。ボノもよく分かっていますね。

 

 

 

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