久保憲司のロック・エンサイクロペディア

レッド・ツェッペリン『レモン・ソング』 ツェッペリンがやっているのはブルースの焼き直しじゃないです。ブルースとは何かと教えてくれているのです

 

レッド・ツェッペリンは「昔のブルースを焼き直しただけ」とよく言われます。

ピーター・バラカンさんにも「エリック・クラプトンのいたクリームは偉大だったけど、レッド・ツェッペリンはただのヘヴィメタのルーツ」とバカにされていました。

僕はそんなことねぇだろうと思うのです。

確かに『レッド・ツェッペリン DVD』に入っている1970年のロイヤル・アルバート・ホールのライブを見ると、前の方に気が狂ったようなガキがヘッドバンキングしている頭の悪そうなガキがいます。でもこれって一番最初のヘッドバンキングが確認出来る動画なので、すごく重要だと思うんですけどね。YouTubeでも観れたりするので観てください。

 

 

レッド・ツェッペリンには気を狂わしてしまうような何かがあるのです。

そういうことから彼らは悪魔と取引きしたバンドと言われたります。

確かにジミー・ペイジは、神秘主義者のアイレスター・クロウリーの住んでいた家を買い、オカルトの本ばかり集めた本屋さんをやっていたり(コベント・ガーデンの外れにあったんですが、こういう系統のお店では珍しく、清潔そうでちょっと小洒落てました)、デヴィッド・ボウイとオカルト対決をしたりしています。

 

 

デヴィッド・ボウイとのオカルト対決は子供の喧嘩みたいで笑います。ある日突然ジミー・ペイジがデヴィッド・ボウイの家を訪れ、話が噛み合わず、ジミー・ペイジはすぐに家を出ていったそうですが、ボウイが言うには「ジミーは俺の枕になにか液体をかけていった」そうです。ようするに、ジミーは俺に呪いをかけにきた、アイレスター・クロウリーの真の後継者となるためには俺が邪魔だったからだ、ということなのでしょう。

けっこう頭いかれているでしょう。

悪魔とか魔力とかないですから。

僕も子供時代は信じてました。23という数字には本当にパワーがあるとか、サイキックTVと仕事してた時は、こいつらと一緒にいるとヤバいことになるんじゃないかとか、思ってました。

歳とるとそんなの全部ウソだって分かってきます。

ロバート・ジョンソンはクロスロードで悪魔と取引して、すごいミュージシャンになったというのは、別の場所に行って、そこでまだ誰にも知られていないミュージシャンの弟子になって、すごい技術を盗んで(教えてもらって)、一生懸命練習して、地元に帰ってきて、みんなから尊敬されるミュージシャンとなったということです。

 

 

レッド・ツェッペリンはまさにそんなバンドです。レッド・ツェッペリンの三枚目に入っている有名なブルース曲「貴方を愛し続けて」なんか、ヤードバーズの「ニュー・ヨーク・シティ・ブルース」を聴いてみてください。ジミー・ペイジがあのイントロの切ないメロを友達のジェフ・ベックからパクっているのが分かります。昔のブルースを焼き直しているという意味では、エリック・クラプトンとフレディ・キングの「ハイダウェイ」を聴き比べてください。その違いはブルースとパンクくらい違うのに気づきます。

 

 

彼らはブルースを焼き直したんじゃなく、爆発させているのです。そして、レッド・ツェッペリンはクリームがやったより何百倍も爆発させているのです。

でも不思議なのはこの三人がほとんど同じエリアで育っていたということです。ロンドン郊外のサリーってとこなんですけど、なんかそこの水にはなんか入っていたとしか思えないのです。

黒人はブルースの怒り、悲しさの音楽と言われますけど、ちょっと成功してロンドン郊外に移りすんだような家族の子供が、ちょっと前までは奴隷で、しかもいまだ差別があるアメリカの黒人よりも怒りがあったって、どういうことなのかな、と思うのです。なぜ日本人にはこれが出来なかったのかなと不思議は思うのです。

アメリカ人には出来たわけです。「お前ら凄いな、俺たちの国の音楽よりも怒ってんな」とジミ・ヘンドリックスやスティーヴィー・レイ・ヴォーンが出てくるのです。

ロックは日本語で歌うべきだとか、そういうことじゃないと思うんです。100年以上前から語り継がれた音楽ですから、もうクラッシックと一緒です。世界中に偉大なオーケストラがあるように、日本にもレッド・ツェッペリンやスティーヴィー・レイ・ヴォーンに負けない、聴いているだけで、アドレナリンが湧き上がるような音楽を作れるようになってもいいんじゃないでしょうか。

日本のロックって、「なんで、お前悲しそうな顔してるねん」と言われて「マイナーの曲やから」と言っていた時代から何も変わってないと思うのです。日本のロックがなぜ弱いか、「肉食ってない」「電圧が240Vやないから」とか色々言われました。でもTレックスの「20センチェリー・ボーイ」のあの電気ショックをやられたようなギター・サウンドは、レコーディング・スケジュールが間に合わなくって普通に日本で録音されたものなんです。「電圧とか機材とか関係ないやん」です。

じゃ、やっぱり悪魔と取引しないといけないんですかね。いや、ロバート・ジョンソンもレッド・ツェッペリンも悪魔と取引してないから。

レッド・ツェッペリンの「レモン・ソング」なんかを聴くとやっぱ彼らはブルースとかロックの本質を分かっているのだと思います。

 

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tags: Howlin' Wolf Led Zeppelin Robert Johnson

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