久保憲司のロック・エンサイクロペディア

プライマル・スクリーム『ソニック・フラワー・グルーヴ』 サイケデリックとはエレクトリック12弦ギターの揺らぎ [世界のロック記憶遺産100]

 

「サイケデリックってなんやねん」と問われれば、それはエレクトリック12弦ギターの揺らぎだと答えます。

揺らぎって何かといいますと、12弦ギターとは、6弦ギターに一弦づつオクターブ高い音を足していったギターです。それできらびやかで華やかな音がするわけです。でも、デジタルじゃないので、完璧に音は合わないのです。管楽器でもなんでもこの微妙なチューニングのズレが気持ちいいわけです。で音を合成して色んな楽器の音を作る楽器シンセサイザーにもデチューンという機能がついているわけです。でもシンセのデチューンとは違った12弦ギターのデチューンさに僕はサイケを感じるわけです。シンセのデチューンにもサイケを感じますけどね。

じゃ、やっぱりサイケデリックを一番最初に始めたのは、リッケンバッカー社から最新兵器のエレクトリック12弦をNYでもらったビートルズなのか!

そこは難しい所で、ビートルズが一番最初のような気もしますし、そんなビートルズの音を聴いて、NYのフォーク・クラブでビートルズの曲をカヴァーして、総スカンを食っていたロジャー・マッギンが「俺たちも12弦を使おうぜ」と言ったザ・バーズの無垢な感じがサイケデリックだという気もします。

 

 

聴き比べて欲しいです。どっちがいいのか、甲乙つけ難いです。ビートルズ、ジョージ・ハリソンのビネガーのようなイナタい感じがする12弦がいいのか、ロジャー・マッギンのバキバキにコンプかかったキラキラな感じがいいのか。

でもロジャー・マッギンの颯爽感ある12弦を聴いていると天国に行けるような気がしてしまいます。もう40年以上聴いているのですけど、今もずうっと青春の中にいるような気持ちにさせてくれます。

この無垢さがサイケデリックなのでしょう。無垢過ぎて壊れてしまったビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンという天才もいます。サイケって怖いんですけど、でも僕は80年代初頭、イギリスやスコットランドの灰色の空の下で、ザ・バーズやラブ、ビーチ・ボーイズの無垢な感じに入れ上げていた若者たちがたくさんいたことをいつまでも忘れません。

そんな中で異彩を放っていたのが、誰もエレキの12弦ギターなんか弾かなくなっていた頃に、12弦ギターを押し出したバンドがスコットランドから登場しました。プライマル・スクリームです。彼らの12弦はジョージ・ハリソンともロジャー・マッキンと違った、パンクを通過した12弦でした。ギターのジム・ビーティを12弦を上の方で構えて、たどたどしくギターを弾いている感じでしたけど、目をつぶるとジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーのピーター・フックのように、好き勝手にグイグイ弾いていくような音がして大好きでした。そして、これが僕らのサイケなんだと感じてました。

 

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