久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ニュー・オーダー「テンプテーション」 この完成途中のチープなサウンドを聴いていると、安いドラッグのLSDをカミソリで四等分していたあの頃を思い出すのです

 

 

MDMAこと通称エクスタシーをやった感覚を音楽と映画で体験するのはこれだ!というのを書いたので、今回はLSDを体験出来る音楽を紹介したいと思います。

そのまえに映画でLSDを体験出来るとして有名なのはやっぱり『イージー・ライダー』ですかね。

 

 

『イージー・ライダー』という話は、ちゃんと説明されてないですが、ヒッピー的なラブ&ピースを持つ主人公二人が、それまで手を出さなかった悪のドラッグであるコケインを悪い奴(商売人)に売って、まとまった金を手に入れて、こういう生活(イージー・ライダー=その日暮らし)から足を洗おう、その成功記念にニュー・オリンズのマルディグラのお祭りでLSDを決めようというストーリーなのですが、みなさん、分かってました? 実はそういうちゃんとした背景があるのです。

たったこんだけのストーリーなのって笑っちゃいますが。

ハリウッド(アメリカ映画)ぽくないハッピー・エンドじゃないエンディングも、実は王道ハリウッドのエンディングなのです。元々のハリウッドというのは悪を描いて、お客さんの動員につなげていたのです。そういうエログロをやっていて金儲けをするのはやっぱり邪教のユダヤ人だと世間から非難されて、当たり障りのない僕らが知るハリウッド映画になっていたのです。ハリウッドの方は、悪いことをどんどん描いても最後はその悪いことをした奴は絶対死ぬという教訓を入れているんだからいいだろって、好き勝手やってたんですけど。

アメリカン・ニュー・シネマの先駆けと言われる『イージー・ライダー』も実は悪いこと(ドラッグを売って、ヒッピー・ライフから抜けようとした)したから、最後は死ぬという元々のハリウッドの形式をとっていたわけです。原点回帰なんです。

そんな悪い奴の一人を、のちに人を撃ち殺してしまうフィル・スペクターが演じていて、未来を予感しているようで気持ち悪いのですが、LSD体験のシーンもとっても気持ち悪いです。

でも、ヒッピーが最後はビジネスマンになるだろうということをヒッピー元年から予言していたのは鋭いですね。ヒッピーの前にはボヘミアンとか色々あったわけで、歴史は繰り返すだろうということはよく分かっていたのでしょう。

LSDをやったらあんなバッドな感じになるか、って思うのですが(そうなる時もありますけど)、演じているピーター・フォンダはアシッド・パーティーでジョン・レノンにひつこく耳元で「死ぬってどんな感じか分かるか」て言って、「気持ち悪いねん」て思われ、「シー・セッド・シー・セッド」で“お前間違っているよ”って歌われた男ですからね。

 

 

カラッとしてないんですよ。ジョンはLSDを体験した一番の歌といえば「レイン」で、“雨が降っててもきにしない”ですからね。この時「ペイパーバック・ライター」と共に公園で撮られたこの2曲のPVはジョンとジョージが体験したLSDの感覚を映像化したものです。後の二人もジョンとジョージに「これすごいからやってみ」と言われてもう体験していたかもしれませんが、ポールはジョンとジョージにそう言われて、「それってヤバい奴やろ」と頑なに拒否、マリファナや瞑想などなんでも四人でやってきたビートルズが、ここで始めて意見が分かれていくのです。

 

 

でも映像見てるとポールもLSDってこんな感じになるんだろって、理解している演技をしていますね。

4人は編集とかにも立ち会ったんですかね。「デジャブみたいな感覚起こるねん、その感じ映像化して、すごい君が近くにいると思ったら、実は遠くにいるんだよね、そういうの映像に出来るかな」とか言ってたんですかね。

LSDをやって体験する不思議な感覚って何かというと、世界が全て繋がっているように感じることです。すべてに理由があって、これが自分が生きてきた意味なのかと分かったりすることなんです。こういうことから神をみたり、感じたりするのでしょう。

こういうことから、今でいうSDGsをやらなあかんという気持ちになるのでしょう。ヒッピー時代だと、『ホール・アース・カタログ』な感じ、スティーヴ・ジョブズで言うとiphone作らなあかんね、みたいな感じです。仏さん、キリスト、ムハンマドもみんなこれと同じような感覚を得たのでしょう。

 

 

ネット世界がそうなっていくのって、LSDの世界がどんどん現実化していっている気がして面白いです。

僕はパンクだったんで、LSDに夢を見ていた世代ではないです。

でも当時LSDが一番安かったんで娯楽としてやっていた世代です。80年代とにかく安いドラッグで一枚3ポンドで買えたのです。当時の2時間分の時給ですね。1パイントのビールが1ポンド以下の時代で、ニュー・オーダーのヴォーカル、ギターのバーニーが「切手の1/4以下サイズの紙をカミソリで4枚に切るんだ、そしてその1/4を食べる。そうすると、ちょうどいい感じに飛べるんだよ」と言ってますが、当時のイギリス人の子はそうやって遊んでました。僕はリッチな日本人なんで、「お前らセコいんじゃ」と普通に一枚食べてました。でも今考えるとヤギじゃないんだから、紙とか食ってたのオカシイですよね。

僕はこの4等分するのが大嫌いでした。なぜかというと、違法に作られたLSDなので、製品が同じクオリティで作られてないのです。同じように液体が紙に染み込んでない時があって、その部分によって、全く飛ばないときと、むっちゃ飛ぶ時があって、ぼくはそれが嫌でこの四等分やってなかったです。彼女とやって、彼女だけ決まって、僕だけ飛ばないとか悲惨でしょ。あと切った残りをどうやって置いておくか問題もありまして、普通財布に入れたり、定期券に入れたりするんですけど、踊っているうちに汗で濡れてたり、どこかなくなったりするのです。バーニーみたいにマメな人はちゃんとおいておくのかもしれませんが。

そうやって作られたのが「テンプテーション」です。

 

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