久保憲司のロック・エンサイクロペディア

The 1975『Being Funny In a Foreign Language』-誰もがブラック・ミュージックをやれるわけではない。The 1975は本当にうまいことやっている不思議なバンド。

 

「2000年代はアークティック・モンキーズの時代だったけれど、2010年代はThe 1975(俺たち)の時代だ」なんて言って、アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーを「ふーん」って怒らせたThe 1975のマシュー・ヒーリー。でもThe 1975のライブを観たら、それも納得してしまうわけです。いや本当に彼らは天才というか、ギフテッドだなと思います。

ここまでThe 1975がすごいと、アークティック・モンキーズがメロウになっているのってThe 1975への対抗かと思ってしまうのです。

 

 

マシュー・ヒーリーがヤマハのリヴァーブとコーラスがかかるアコースティック・ギターに衝撃を受け「これヤバいよ」って紹介する動画があるのですが、そこで紙マッチをピック代わりにさりげなくザ・ラーズの「ゼア・シー・ゴーズ」を弾いているんですが、それがセンスよくって、びっくりしました。

ヤマハのアコギ、欲しくなりました。

マシュー・ヒーリーの歌を聴いていると、こんなに簡単に今のアメリカのR&Bをイギリスの若者が出来るのかと思ってしまうのです。

K-POPの子らもやっているので、当たり前と言えば当たり前なんですけど、その昔ザ・ビートルズがR&Bをやっても、ちょっと謙虚というかへりくだるというか、「まっ、本物には負けるよな」という気持ちを込めて自らの音楽をプラスティック・ソウルと言ってたのに、マシューは本当にフランク・オーシャンみたいな現代のソウル、R&Bをちゃんと歌っているというか、曲を作っているのが羨ましいなと思うのです。

初めてThe 1975というバンドの存在を聴いた時、それはダークネスみたいなバンドかと思ったんですけど、音を聴いてびっくり、今のR&Bをやったはるやん、本物に比べると弱いかな、この系統だとエド・シーランとかジャスティン・ビーバーに負けるんじゃない、インディからこの路線をやっていくの無理なんじゃないのと思ってましたが、どうでしょう、あれよあれよと自分たちのソウル、R&B、ポップス、オルタナティヴを確立していきました。

 

 

ザ・ダークネスのヴォーカルのジャスティン・ホーキンスもすごいですけどね。今ジャスティンは音楽をめった斬りするにYouTubeをやっているのですが、それがめっちゃ斬新です。ヴォーカリスト、作曲家、パフォーマーの観点から音楽を批評する人は今までいなかったので、とっても勉強になります。

 

 

ジャスティン・ホーキンス、元々ヴォーカリストじゃないんですよね。スタジオのアシスタント・エンジニアもしながら、売れるバンドを模索し、色々なヴォーカリストをオーディションしたけど、いいヴォーカルがいなく、お前が歌えということになったそうです。

ポップトーン時代(アランがクリエイションの次に始めたレーベル)のアラン・マッギーの所にいたイアンというのがザ・ダークネスを見つけてきて、「これ絶対売れるから」とアランにプレゼンしたんですけど、契約するか迷って(そりゃそうだ今までアランがやってきたのとあまりにも違う)、ボビー・ギャレスビーに音を聴かせて(迷った時はいつもボビーに相談するそうです)、「どう思う?」って聴いたら、笑ったので、辞めとくかということになったそうなんですが、もしザ・ダークネスとアランが組んでいたら、もっと面白い方向に行ったような気もするんですが、行かないか。

 

 

90年代のビートルズを見つけたアランが、00年代のクィーンを見つけたってことになったような気もするんですけど、そこまでアランも踏ん切りがつかなかったというか、それは彼のインディ魂を裏切ることになると思ったんでしょうかね。難しい所です。じゃデヴィッド・ボウイだったらよかったのか?まだ誰も新しいボウイを見つけられていないの興味深いことですね。まっ、誰も次のカート・コバーンも見つけられていないし、ザ・ストーン・ローゼズ、ハッピー・マンデーズ……色んな空いた席はたくさんあるんと思うですけど、そこに座れる人はいないもんですね。

ラフ・トレードが手を追えなくなってアラン・マッギーがマネージメントに乗り出すザ・リヴァティーンズも失速したし、難しい所です。

ジャスティン・ホーキンス、マシュー・ヒーリーなどの新世代の人たちは面白い。マシューとジャスティンは14歳も歳が離れているので、全然同世代じゃないんですけど、なんかジャスティン・ホーキンスくらいから、節目が変わってきたなと思うのです。アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーはジャスティンと同世代ですが、アレックス・ターナーはまだイギリス・インディ・シーンの王道の素晴らしい血を感じるんですけど、ジャスティン・ホーキンス、マシュー・ヒーリーはなんか違った感じを感じます。音楽を幅広く理解し、自分のものにしているなと思うのです。

 

 

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