モスバーガーの「不適切」な黒板はレイシズムなのか? -差別的表現再考 1 (松沢呉一) -3,883文字-
いまさらながら考える、モスバーガーの「不適切」な黒板の件はレイシズムなのか?
まさかのろくでなし子再逮捕があったため、出すのが遅れてしまいましたが、実習生についての話の続きを先に出します。ろくでなし子再逮捕については、この先まだまだ解決はしないでしょうから、「わいせつとは何か」といったテーマについては来週以降やっていきます。
数回前の続きではありますが、テーマは大きく変わります。
もう一度この動画を観ていただきましょう。
ここで私が注目したのは、モスバーガーの件です。
モスバーガー飯田橋東店(東京都千代田区)の店頭に、中国人の女性店員を侮辱するような黒板が立てられていたと、ネット上で騒ぎになっている。運営元のモスフードサービスでは、取材に対し、「不適切」と認めて黒板を撤去したことを明らかにした。
周来友氏は「日本人はユーモアがないと言われるけど、日本人にもユーモアがあるんだな」と軽くコメントをするのみです。もちろん、皮肉を込めているのですけど、さして、ここに重きを置いているとは思えない。
対して安田氏はこれを「蔑視が表れたもの」としています。本当にそうか? あのフレーズを路上で見たらいい気はしない。しかし、その不快さは果たしてヘイトスピーチだの差別だのレイシズムだと言われるべきものなのかどうか。
これについて、ネイキッドロフトでの「桜井誠送別会」のあと、何人かに聞いたのですが、私同様、「あれは差別とは無関係」と感じる人たちが多数でした。その中の一人が「ちゃんと書いてくださいよ」と言うので、ここでまとめておくことにした次第。
私は確認していないですが、その時聞いたところによると、カウンター参加者の何人かは、Twitterで「差別の問題ではない」と表明していたようです。そこは救い。しかし、そういう言葉は、直情的に叩く多数の人の中に埋もれます。
ヘイトスピーチという言葉を「他者を叩く便利な道具」として使う人々が出てくることは当然予想はしていたのですが、いよいよ道具化が始まってきたようです。その時に「そうかなあ」「違うだろ」と思う人がいても、なかなか意見を表明できない。叩く人は直感に頼り、怒りとともに5秒で反応するのに対して、「違うだろ」という人はその説明に手間がかかるため、面倒になって黙ってしまう。
また、差別を糾弾する人に「違うだろ」と指摘すると、自分が差別を肯定する側にいるかのように思われるのではないかと恐れるために黙ってしまう。こうして無闇に「差別だ」としたがる人たちは増長する。
「今度遅刻したらお前の背脂でラーメン作るぞ!!」はゾーニングの手違いでしかない
これが果たして差別的表現であり、ヘイトスピーチとすべきものなのかどうか、改めて確認しましょう。
原文は以下。
【遅刻を何度もする中国人の女の娘に「今度遅刻したらお前の背脂でラーメン作るぞ!!」遅刻しなくなりました。】
これを以下のようにしたらどうか。
【遅刻を何度もする女の娘に「今度遅刻したらお前の背脂でラーメン作るぞ!!」 遅刻しなくなりました。】
【遅刻を何度もする女の娘に「今度遅刻したらハンバーガーにするぞ!!」 遅刻しなくなりました。】
どちらであっても不快になる人はいるでしょう。私もおそらく不快になると思いますが、その不快さは、「場と言葉の選択を間違えている」「センスがない」「食い物屋の店頭に出すべき冗談ではない」「バイトいびりにも見える」ということでしかない。
【うちの娘の成績が悪いので「今度0点をとったらお前の背脂でラーメン作るぞ!!」 0点をとらなくなりました】
これを食い物屋の店頭に出していたら、やはり不快になる人はいるはず。人間の背脂でラーメンを作るという発想自体が食い物屋には似合わない。また、公道に向けて職場の、あるいは家族の関係を晒していることが不快。意味をはっきり受け取れる範囲で言うなら、このフレーズの不快さは、それだけの問題です。
【今朝ウンコをしたら血が混じってました。それでも頑張っておいしいハンバーガーを提供します】
これもハンバーガー屋には似合わない。そういう類のフレーズなのです。
対面でこういうことを言って通じる相手、通じる関係、通じる職場もあるんだと思います。たいていの場合、私には通じます。つうか、私もよく言ってます。ウンコだのチンコだのキンタマだの。
モスバーガーの飯田橋店内では、冗談として通じたのでしょう。あるいは、その冗談が本人にも受けたがために、表に向けて書いたのかもしれない。
それを飲食店が外向けに、しかも、公道から見える形で書くことには気持ち悪さを覚える。しかし、それは中国人かどうかの問題ではないと思うのです。少なくともそこに重きがあったことを確定させる根拠が見出せない。
SNSで「ダーリンが」とやっている女子の気味悪さとも似ています。そういう人はフォローしなければいいのですが、公道に向けたら見えてしまう。女性店長が「うちのダーリンが今日も頑張って来いってチューしてくれました」と店頭に書いて出していたら気味悪いでしょ。
しかし、定食屋のおばちゃんが冗談として客に言っても、客は「バカ言ってんじゃないよ。メシがまずくなるだろ」とかわしておしまい。
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