松沢呉一のビバノン・ライフ

誰が街を殺すのか、誰が表現を殺すのか / 歌舞伎町を凋落させた人々-ろくでなし子再逮捕 [7] -(松沢呉一) -3,824文字-

ラブホテルの「ホンネとタテマエ」 ・・・誰が警察をサポートしているか -ろくでなし子再逮捕 [6]」の続きです。

 

 

 

天晴、ろくでなし子

 

vivanon_sentence東京地検がろくでなし子を起訴しましたが、その前にこれ。

ろくでなし子容疑者、改めて否認
「わいせつではない」自身の女性器をかたどった「作品」を陳列したとして、わいせつ物陳列の疑いで逮捕された五十嵐恵容疑者(42)=ペンネーム・ろくでなし子=の勾留理由を開示する手続きが22日、東京地裁で開かれた。五十嵐容疑者は「作品を『わいせつ』と決めつける警察にとても驚き、納得がいきません」と述べ、あらためて容疑を否認した。

逮捕後から弁護側が勾留の取り消しを求めているが、裁判所は却下している。その理由について、安藤範樹裁判官は「証拠隠滅や逃亡の恐れがある」と 説明。これに対し、五十嵐容疑者は「断じて証拠隠滅も逃げることもありません。誓います」と主張した。また、「作品が『わいせつ』ではないということを、 裁判で堂々と証明したい」とも述べた。

 

「マンコ」という言葉を裁判官に注意されたことが話題になってしまっていますが、裁判所がこれを嫌うことはそうおかしなことではないかとも思います。たとえば覚醒剤で逮捕された人が「シャブ」と言ったり、拳銃所持で逮捕された人が「チャカ」と言ったりすれば同じように嫌うはず。ただたんに下品というだけではなく、用語の統一の問題もあります。

私のようなライターごときでも、用語のバラ付きは気になることがあり、まして緻密に議論を詰めていく裁判所では同じものを指し示すのに、「マンコ」「オマンコ」「オマンチョ」「女性器」「外性器」「陰部」「おそそ」「あそこ」「それ」「ヴァギナ」「プッシー」といった複数の用語を同時に使用するのは好ましくない。これは裁判ではないですが、裁判所の性質として嫌うはずです。

もちろん、「チンコ」「チンポコ」「キンタマ」でも同じでしょう。「女だから言葉を使えない」「フェミニストだから注意された」なんて馬鹿なことを言い出すのがいそうで怖いわ。

それはそれとして、たしかに彼女が言うように、女性器の名称の方がより抑圧されている傾向は確実にあります。これが不当だと言う人たちは、ふだん自分たちが「マンコ」「オマンコ」と言っているのかどうかを考えましょうね。私は言っているし、書いていますが、それを言ったり書いたりしていない人たちが「裁判所は不当だ」と批判することのおかしさに気づきましょう。あなた方も、この言葉を使えない社会、使いにくい社会を作り出しているのであり、抑圧の加担者です。自分が潔白であるかのようなツラをしないように。

彼女の主張が正しい、その言葉を使わせない裁判所は不当だと感じる人たちは、その言葉をいつでもどこでも使えるように、たった今から「マンコ」を職場でもプライベートでも連発し、電車の中でも路上でもためらうことなく使用し、FacebookやTwitterにも「マンコ」を溢れさせましょう。本気で言ってます。ノルマは一人一万個。

しかし、裁判所が批判されるべきはそのことではなくて、「証拠隠滅や逃亡の恐れがある」としたことです。そんな恐れがいまさらあるわけがないでしょうが。そんな恐れがないケースで、警察は安易に逮捕すしぎ、検察は安易に勾留しすぎ、裁判所は安易にそれを認めすぎです。逮捕、拘留、勾留で制裁を加えるのはやめろ。

またぞろ「女だから勾留されている」「フェミニストだからこんなひどい目に遭う」とかなんとか言い出すイカれた人たちがいそうですが、性別を問わず、容疑を問わず、こういうことが日本では恒常化しているのです。容疑を認めれば釈放、認めないと制裁を加えるやり方はおかしいし、冤罪をも作り出します。

それに対して毅然とした態度をとったろくでなし子は天晴。とことん闘う気です。この姿勢で裁判に勝てるのかどうかって問題はさておき、この姿勢は天晴だし、痛快です。

対して、北原みのりは容疑を認め、略式起訴で罰金。ここまで書いてきたように、この判断も妥当だと思います。裁判闘争を選ばなかったことを批判すべきではありません(追記)。

では、私は私の論を進めていくとします。

追記;まさか、刑法175条を肯定し、自分が猥褻犯であることを認めた人間が、のうのうと表現批判、性風俗批判をやるとは思っていなかったためにこう書きました。北原みのりの行為は、ろくでなし子を不利にしかねないわけで、恥ずかしくて十年くらい黙っているのだとばかり思ってました。「自分には生活もあるので、情けないことに認めてしまいました」とろくでなし子に謝罪をし、表立ってはやりにくいとしても、裏で金銭的サポートをするのならともかく、なんのケジメもない。盗人猛々しい。こんなんを起用しているメディアもいったいなんなんですかね。

 

 

歌舞伎町を凋落させた人々

 

vivanon_sentenceここまで書いてきたように、不寛容な人々が、違法な風俗店が出てくる環境を作り出し、警察が恣意的に摘発できる環境を作り出しています。

そういう人たちだけじゃなく、世間一般にこういう業界を冷ややかに扱ってきました。メディアもそれに同調してきました。警察は、そういった世論が求める方向で動いてきただけかもしれない。

 

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