人質の遺体写真と原爆の遺体写真はどこが違うのか-小学生に見られるものと見せられないもの(松沢呉一) -3,418文字-
遺体写真を見せたことは無条件で否定されることなのか
これでまた考えこんでしまいました。
名古屋の小学校、授業で「遺体画像」見せる
名古屋市の小学校で、教諭が「イスラム国」に殺害されたと見られる男性の遺体の画像を、授業の教材として児童に見せていたことがわかりました。
「子どもに見せるものではない。生々しく残虐なもので不適切と考えている」(名古屋市教育委員会の会見)
3日、名古屋市東区の小学校で、20代の女性教諭が5年生の社会科の授業で、「イスラム国」による日本人殺害事件に関する静止画2枚を教材としてテレビに映し、児童35人に見せました。2枚のうち1枚は、湯川遥菜さんと見られる男性の遺体が修正されずに映っていました。
「衝撃が強すぎるんじゃないかと思います。殺害の画像の必要があるのかなと・・・」(児童の保護者)
女性教諭は「報道のあり方について考えさせるとともに、命の大切さについて目を向けさせたかった」と話しているということです。(05日18:06)
考え込んだのは、これ自体であるとともに、あまりに安直にこの教諭を罵倒する言葉がネットに溢れたことについてです。
これはどこに間違いがあったんですかね。「そんなことはいちいち説明するまでもなくわかるだろう」という意見もありましょうが、私はわからんです。
私が小学校の教諭だったとしたら、決して生徒には見せません。だからといって、この教諭の行為を単純には批判できないと感じます。
これをたんに残酷という理由でアウトだとしてしまうと、広島や長崎の被爆者の写真や黒焦げの写真もアウトになり、小学生も見学する原爆資料館から蝋人形を撤去するのは正しいことになってしまわないか? もちろん、「はだしのゲン」もアウトです。
教諭を批判する意見は『はだしのゲン』を否定する意見に等しい
弁護士ドットコムに出ている多田猛弁護士の意見を読んでいただきたい。
今回のような見せ方は、常識の範囲を超えているのではないか。『戦争を題材にした本や映画などでは、戦争の悲惨さを伝えるために死体の描写をされることはある』『汚い物を隠す社会はダメだ』という意見もあるようだが、年齢に応じた許容範囲を考慮しなければならない。
たとえば、ゲームや映画も、残酷なシーンがあるものについては年齢制限を設けている。それを考えれば、幼い子に残酷な画像を見せるのはおかしいとい うのが常識だ。残酷な画像を見せることで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になったら、教師はどう責任を取るのか。刺激を受けて犯罪に走ったり、下手をすれば模倣するかもしれない。
これらの言葉は原爆資料館見学や「はだしのゲン」にも該当します。多田弁護士は小学生あるいは中学生が原爆資料館に行くことを禁止すべきだとお考えなのでしょうし、「はだしのゲン」あるいはそれ以外の原爆、戦争関係の残酷な画像が掲載された本を小中学校から撤去すべきだとお考えなのでしょう。ここに出ている意見からすると、そうとしか思えません。
それに私は同意はしませんが、整合性のある考え方だと思います。同じく、それらもすべてアウトだとする人たちは教諭を批判するといい。もちろん、今後、『はだしのゲン』が学校から撤去されることになっても、原爆資料館から人形が撤去されることになっても、それに反対する資格はもうないことを自覚されたし。
「『はだしのゲン』はマンガだからいいが、写真はアウト」という考え方もあるでしょう。その人もまた矛盾がない。しかし、写真が掲載されているものは小学校の図書室からすべて撤去を主張することになりましょう。
米軍のカメラマンだったジョー・オダネルが長崎で撮影したこの少年の写真も小学生に見せるべきではないでしょうね。赤ん坊は死んでいるわけですから。首はついていても、これほど残酷な写真はなかなかないと思います。
そういう人たちは勝手にそう主張するといいとして、「広島、長崎の写真はいい」「ベトナム戦争の写真はいい」としながら、この教師を批判する人たちは、どこに線引があるのかを考えるぺきです。
時間が経っているからでしょうか。つい最近まで生きていた人だからでしょうか。それもひとつの考え方でしょう。
私は原爆資料館に小学生を連れていくのも、写真を見せることも、『はだしのゲン』を読ませることも、戦争の記録映画を見せることもすべてありだと思っています。
しかし、私は人質の遺体写真は見せないと上に書きました。同時に見せていいのだと判断できる小学校教諭が存在することも想像できます。
その教諭がそうだったのかどうかは情報が少なすぎてわかりません。しかし、その可能性がある以上、私は批判できない。判断保留です。
では、なぜ私は生徒に見せないのか。
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