街娼を知るための国会図書館の資料-「闇の女たち」解説編 7(松沢呉一)-2,680文字-
「改めて刊行イベント「闇からのメッセージ」のお知らせ-「闇の女たち」解説編 6」の続きです。
「ビバノンライフ」のありがたさ
『闇の女たち』の定価が決定。本体価格790円、税込価格853円とのことです。
定価が決まり、表紙もできて、書店さんも乗り気なので、ここまで至れば新潮社の社長も「こんな下品な本を我が社から出すわけにはいかない。発売は中止だ」とは言い出さないでしょう。
しかし、現物が出来上がるまでは安心できない。いや、印税をもらうまでは安心しません(笑)。そんくらい街娼は出版社にも読者にも相手にされてこなかったテーマです。世の中が信用できない。
もちろん私はここに意義を感じていたからこそ取材を続け、資料を読み続けてきたわけですけど、他人にはなかなか通じない。いつものことです。
新潮社の担当編集者は、その当時からこれに目をつけていた変わり者ですが、文庫として実現するまでには十年以上かかりました。他人がなんと言おうと、企画を通せるくらいに偉くなったのであります。私は街娼取材が続けられなくなって忘れようとしてましたから、彼の執念でこの文庫は実現しました。
遊廓やRAAも、既存のイメージをなぞるものだったらいいんでしょうけど、それを覆すようなものは相手にされにくい。それでも今は「ビバノンライ フ」があるので、公開することができて、雑誌の原稿料とは比較にならないとしても金銭にも換算されるようになって、ホントにいい時代になったなあと。
ここでは編集者の依頼を待つ必要はなく、読者受けを考える必要もなく、自分のテーマをやり続けることができます。遊廓の話や女工の話は、購読者がこれっぽっちも増えないテーマでありまして、少しは読者受けを考えた方がいいのかもしれないですが、こういうことこそ私のやりたいことであり、ちいとは読んでくれている人たちがいるのは励みになります。ありがたい。
国会図書館のありがたさ
しかも、今は国会図書館が古い資料をネット公開しているので、古本の目録や即売会で資料を探して、高い金を出して買う必要もなくなってきていますいよいよいい時代です。
『闇の女たち』の第二部の「日本街娼史」のもとになった原稿を書いていた頃はネット公開なんてなされていなかったですし、国会図書館は行くのも面倒、行ってからがまた面倒なので、全部買い集めていたわけですが、今後は何を調べるにせよ、まずは国会図書館に頼ることになりそうです。それでも足りない部分は他で調べるしかないにせよ。
戦後の資料は著作権が残っているためにほとんど公開されていないですし、国会図書館も、一般の雑誌の所蔵は少なく、著作権が複雑になるので、当面公開されないと思いますが、戦前の単行本だけでもありがたい。所有している本でもうちで探すのが困難なので、国会図書館をフル活用しています。
たとえば「日本街娼史」の戦前編では「乞食淫売」を取り上げています。これについて当時積極的に調べていたのは、石角春之介と草間八十雄です。「日本街娼史」では雑誌の記述も引用していますが、草間八十雄著『浮浪者と売笑婦の研究』(文明協会・昭和二年)と石角春之介著『乞食裏譚』(文人社出版部・昭和四年)の二冊を読むとだいたいのことはわかります。
この辺の本を入手するには苦労します。とくに石角春之介の「裏譚(うらばなし)シリーズ」は現物を買おうとすると、たいていは万単位します。
しかし、どちらも国会図書館がネット公開しています。なんちゅういい時代。「苦労して入手したのに」との腹立ちもありつつ。
※図版は『乞食裏譚』の扉絵
ステッキガールの時代

ステッキガールは、昭和30年代に、浜松を筆頭に、売防法の摘発逃れの業態として話題になりますが、戦前のオリジナル・ステッキガールはこれとは別で、銀ブラの相手をするモガのこと。
このステッキガールは話題が先行して、果たして実在するのかどうかが議論になったりしていますが、私は「実在した。実態は街娼だった」という説を支持しております。詳しくは『闇の女たち』を読んでください。
これについては雑誌に記事がよく出ていて、本の形になったものはそう多くはないのでが、酒井潔著『日本歓楽境案内』(竹酔書房・昭和六年)が比較的詳しく論じています。酒井潔は実在に懐疑的ですが。
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