貞操を守らない女を自ら制裁する白川俊介-「闇の女たち」解説編 17(松沢呉一)-2,556文字-
「貞操を守れない女は娼婦と同じ-「闇の女たち」解説編 16」の続きです。
狩り込みされた女の住所・氏名を晒す白川俊介
白川俊介は、狩り込みされた女の住所(番地まで)と氏名を書いています。警察から聞いたのでしょう。
この女は夫も子どももあり、夫には稼ぎがあるので生活には困っておらず、ただ「好きだから」という理由で、金ももらわず、闇の女たちに混じって男を探し歩いていて、狩り込みされたもの。
白川俊介はこれを「一種の色情狂」「精神異常者」としています。男の好きものは時に礼賛もされるというのに、貞操を守るべき女がそこから逸脱すると精神異常だもんなあ。
彼女は池袋で狩り込みに遭い、吉原病院に連れていかれるトラックから転落して負傷して夫にばれているのですが、それを知った夫もさして動揺しない様に、白川俊介はこの夫まで「精神異常者」としています。
貞操を守らない妻も、妻の貞操を守らせない男も精神異常。
「男は貞操を守らなくていいが、女は貞操を守らなければならない」「ヤリチンはいいが、ヤリマンを容認する男も許さない」というのが白川俊介の考え方かと思います。
だからといって、住所氏名を出す必要がどこにあるのでしょう。
※国会図書館から出てすぐに外でコピーのいくつかを写真に撮りました。このあと日比谷公園に行き、さらに銭湯にも行く予定で、その間にコピーがシワシワになってしまう可能性があったためです。
写真を撮り終えたところで、ガチャガチャガチャという大きな音がしました。事故らしい。「出番か」と思って走って行ったら、三宅坂の交差点でトラックが中央分離帯に乗り げて鉄柱をなぎ倒してました。場所柄、すぐにパトカーがやってきました。見通しのいい場所なので、運転手のミスであり、減点と罰金間違いなしですけど、だからといって住所、氏名を晒したりすべきではないと思います。
サイテーの新聞記者
拙著『闇の女たち』で説明しているように、この段階での狩り込みは、戦前の法規に基いています。性病予防法施行以降もそうですが、狩り込みはもっぱら性病感染を防止するのが目的です。
性病に感染しながら売淫することを規制していて、上のケースは、金をもらっていないのですから狩り込みの対象ではありません。このような誤認の狩り込みがなされることはよくありました。また、狩り込みの対象だったとしても、感染していなければ釈放されたはずなのです。
この時は、まだ姦通罪がありましたから、違法性があるとも言えますが、夫もそのことをなんとも思っていないなら、ほっとけよ。
今に比べれば昔はプライバシーに配慮することが少なかったのは事実ですが、「高名なプロ作家」を批判する時は名前を伏せているわけです。しかし、反論もしてこないだろう対象の氏名は晒す。住所まで晒す。サイテーの新聞記者。
※写真はかつて新宿の街娼たちがドヤとしていた旭町時代の雰囲気をなお残している町並み
道徳のために制裁を加える人々
誤認と思われるのに、検挙された女の住所や氏名まで晒す白川俊介。事実をそのまま記載したい記者魂なのではなく、制裁なのです。
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