なぜ松戸から上野に通う街娼がいたのか?-「闇の女たち」解説編 28-(松沢呉一)-2,574文字-
上野と松戸
内容が一部重複していたため、『闇の女たち』発売に伴って非公開にしてしまいましたが、「ビバノンライフ」に「ノガミ旅行記」という長文を出していました(復活させました)。これは『闇の女たち』でインタビューを掲載したノガミの男娼のボスである千鶴さんに案内してもらった上野の現在に、歴史を混じえたもの。
その中に松戸の話が出てきます。『闇の女たち』の第二部「日本街娼史」のオリジナル原稿でもこのことについて説明していたのですが、あまりに細かい話なので、文庫にする際にすべてカットしてしまいました。
まずはその内容をざっと紹介しておきます。
電車に乗って移動する街娼がいた?
「日本街娼史」で取り上げている角達也著『男娼の森』の主人公たちは松戸を拠点にしていました。松戸市は、江戸川を挟んで東京に隣接する千葉県です。近いっちゃ近いですが、常磐線で上野から二十分ほどかかりますから、ヤサにするには遠すぎます。
この本は小説ではありますが、どうやらかなりのところまで実話が元になっているよう。これ以外にもノガミの街娼たちには、松戸から通ってくるのがいたことを記述したものがあり、中には客を松戸まで連れて行っていたと書かれているものもあります。
不思議であります。通常、街娼は客をつかまえると、近くの宿に入ります。その宿が確保できないようなところには立たないのです。
焼け跡時代の新宿であれば駅前でつかまえて、旭町(現在の新宿四丁目)のドヤ街に移動してました。駅前から旭町までは目と鼻の先。徒歩で五分もあればいい。これなら客の気が変わることもない。
これは今も同じで、街娼が立つ場所には必ず近くにホテルや旅館があります。
その常識からして、電車で移動することは考えにくく、当初、こういう記述を見たときに「現実を知らない人の創作だろう」と疑いました。
上野公園で客をつかまえて駅まで移動する時間、電車を待つ時間、松戸駅から旅館までの移動の時間までを入れると小一時間かかったでしょう。その間に、明るいところで相手をまじまじと見て気が変わる客もいたろうし、怖くなる客もいたでしょう。そうじゃなくても、酔いが覚める人、欲望が失せる人たちもいましょう。「今から松戸に行こう」と言われたら、それだけで断る客もいたはず。
しかし、これは事実でした。おそらく常連の泊まり客だけでしょうけど。
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