松沢呉一のビバノン・ライフ

結論は非犯罪化—中国のHIVとセックスワークについての報告書(下)-(松沢呉一)-2,969文字-

売買春の禁止がHIVを広げ、人権を侵害する—中国のHIVとセックスワークについての報告書(上)」の続きです。

 

 

 

セックスワーカーのグループが機能していない中国

 

vivanon_sentenceセックスワーカーのグループやサポートグループが存在している国ではそれに対抗することでいくらかは警察の姿勢を緩和できますが、中国ではセックスワーカーたちが団体を作って活動しにくいことが対策の障害になっていると報告書では指摘されています。

それでもUSAIDのバックアップによって、セックスワーカーの健康と人権を守るためのChina Sex Worker Network Forumが2009年にスタートし、香港を含めた17の団体が参加。これらは必ずしもセックスワーカーの団体ではないのですが、画期的です。

しかし、ほとんど活動はできていないようで、Facebookのアカウントも2013年で止まってます。このアカウントの連絡先はサンフランシスコになっています。上海にも拠点があったようですが、こちらのアカウントは開設時からなんの動きもなし。国内については下手な動きができないので、連絡先としてのアカウントを設置しただけかも。

おそらくここに参加した団体の多くはHIV関連の資金援助を得ているのだと思われますが、「アジア編 5/中国—HIV・エイズに関する動画史[11]」で説明したように、ここ数年で海外からのHIV関連の資金援助が打ち切られているため、活動に支障を来しているのだろうとも想像します。

その代わり、中国政府が資金を出すことになったようなのですが、セックスワーカーよりもMSMの感染者が増大しているため、そちらに力を注ぐことなっていることや、予算は検査体制に費やされていることも報告書では指摘しています。

一時はゲイのコミュニティセンターも各地にできていて、私も訪れているのですが、これらも閉鎖されているようです。「看板のピンクはエロの色・下着のピンクは子ども色-桃色探訪 2」に出ているピンクの入口の写真は、そんなセンターのひとつです。ここも今はもうないかもしれない。

国外の資金による国内外の民間の団体の活動と、国内の資金による行政の活動ではどうしても違いが出てきます。とくに中国では、民間団体に委託する発想よりもお上が管理する発想になりやすい。

こういった事情がありながらも、セックスワーカー自身が参加する団体がいくつかは存在していて、この調査にも協力しているのですが、公然と活動することは難しい。SWASHが懇意の団体もありますし、国外の会議に参加しているケースもあるのですが、多くの場合、個人参加だと思います。団体メンバーとして参加していることが当局にばれてしまうとまずいですから、そのことも第三者は触れにくい。

※ストリートビューより深圳市の夜

 

 

逮捕されるとさらし者に

 

vivanon_sentence非合法であるため、セックスワークをしていることがばれたくないのは当然ですが、ただ逮捕され、罰金を払わされるだけではない。

コンドームを使用できないこと自体、暴力と言い得る上に、違法にしていることにより、警察の直接的暴力にも晒されています。

ひどい話が報告書に書かれていました。

 

 

南部の深圳市では、2006年、警察は100人のセックスワーカーの「恥辱の行進」を行った。 地元警察に逮捕されたセックスワーカーは、手錠をかけられて市内の主要道路沿いに行進させられた。また、2010年、杭州の警察は、セックスワークに従事して拘束された女性たちの家族に、家族の違法行為を知らせる手紙を送った。 そして、2017年1月、貴州省の警察は、セックス・サービスの売買、賭博、ドラッグに関わって拘束された10人の人々の写真や情報を公表した「見せしめボード」を路上に設置した。

 

 

いつの時代の話だ。杭州の警察は、相談者に無断で親や恋人にチクる兼松左知子か

 

 

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