松沢呉一のビバノン・ライフ

解決もアバウトに—KaoRiとアラーキーの件から考えたこと(10)-(松沢呉一)-3,423文字-

撮影料10万円がタダになる不思議—KaoRiとアラーキーの件から考えたこと(9)」の続きです。

 

 

 

どうしたって人は変化する

 

vivanon_sentence前回の話の続きです。ああいう状況で、カメラマンと劇団との間で揉めることはまずないと思うのですが、個人はまた別。

カメラマンが自分の展覧会でこの時の写真を展示していたら、この劇団を辞めた女優が知り合いに教えられてこのことを知り、劇団員の立場としてはタダでよく、劇団のため、また、次回公演のためと思えていても、すでにそこを離れている彼女は、個人としての判断をして「半乳はちょっと」と思います。

半乳じゃなくても、「この表情はちょっと」「この頃は太っていたからちょっと」と思うことはあるでしょう。他者がいいと思う写真を自分がいいと思うとは限らないですから。

彼女は劇団の主宰と揉めて、この劇団に所属していた過去さえも消したいと思っているかもしれない。その劇団を辞めて、現在はプロダクションに所属しているため、アングラな劇団にいたことはマイナスだと思ってのことかもしれない。

彼女はカメラマンに「半乳の写真は出さないで」と連絡します。

こういった場合にどうするかは人によりけりです。本来金をもらうべきところでタダで撮ったんだから、譲れないカメラマンもいそうです。

「オレが好きに撮っていいという条件に合意したんじゃないのか。自由に撮っていいってことは自由に公開していいってことだろうが」

とカメラマンは言うかも。経緯からして、これは間違ってない。

「だったら、5万円を払うので、この写真の権利を買い取らせてください」

と彼女は言います。これも間違ってない提案です。

現実にこうやって話がまとまるケースはいっぱいあると思います。

あるいはカメラマンは「しょうがないなあ」というので、金銭のやりとりなく、この写真をお蔵入りにすることもありそう。たぶんこれがもっとも多い解決です。カメラマンとしても、ここで揉めたっていいことはなく、数ある中の一点ですから。

 

 

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