松沢呉一のビバノン・ライフ

なぜ日本国民は大政翼賛に走ったのか—心のナチスも心の大日本帝国も抑えろ[5](最終回)(松沢呉一)-3,395文字-

人口抑制策とアダルト産業の密接な関係–心のナチスも心の大日本帝国も抑えろ[4]」の続きです。

 

 

視野が狭いと騙される

 

vivanon_sentence脳内海外を信奉する人々—裸の文脈(1)」で、おそらく虚偽によってコンドームショップを貶める輩を取り上げました。虚偽だと推測できる根拠はいくつか挙げましたが、おそらくこの人物は、ヨーロッパではHIV対策を主眼とした公共広告で、また、メーカーのCMでもコンドームが登場し、セックス描写も相当までなされていることも知らないのでしょう。また、発展途上国では人口抑制を主眼としたコンドーム、ピル、IUD等の避妊方法がテレビCMに登場することも理解していないのでしょう。

キリスト教原理主義者の強い米国でもコンドームのCMは多様ですし、マーガレット・サンガーが1916年に設立したAmerican Birth Control Leagueを前身とするPlanned Parenthoodは、銃撃をされるなどしつつも、アフターピルのCMを制作しています(実際に放映されているのかどうかは不明)。

その点では先進国の中ではきわめておとなしく(「きわめて遅れている」と言ってもいい)、多くの発展途上国の国々と比しても避妊具についてのCMの倫理規定が厳しい日本で、おそらく虚構の外国人を登場させてアクセス稼ぎ、ないしは道徳の拡大を企図するのですから悪質です。こんなもんに騙されるのがいるくらいに日本はガラパゴス化しています。

そこまではわかっていたことですが、私は「HIV・エイズに関する動画史」シリーズを書くことで、自身の視野の狭さも思い知らされたわけです。

DKTインターナショナルのサイトよりDKTがミャンマーで流しているIUDのCM。手にしているのがIUD。エリアや国によってブランド名や商品名を使い分けているのですが(商標がとれなかった等の事情があるのでしょう)、これは「Choice」というブランドで、IUDも形状によって向き不向きがあって、各種IUDから選択するというコンセプトであり、広く避妊は選択するものという意味も込めていそうです。

 

 

我々の見ているものは見たいものだけ

 

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日本では「子どもたちが教育を受けられるため(学校を作るため、文具を買うため)」の寄付や「井戸を作るため」の寄付を募る団体はあっても、その背景にある人口増加の問題とその対策に触れないため、世界の現状に気づいていない人たちが多いかと思います。私も気づいてませんでした。

人口はすでに抑制傾向にあって、ここ30年ほど、世界が抱えるテーマはHIV・エイズだと思ってしまってました。はっきりそう思っていたのではなく、人口問題は関心外になっていたと言った方がいいか。事実、かつて人口の急増が問題になっていた中国、インドなどのアジア諸国は抑制傾向にあり、アフリカ大陸でもはっきりと効果が出ているのですが、それでも引続き人口問題は相当に深刻であることまでは想像できていなかったように思います。

さらには人口の増加が学校不足や貧困のために教育を受けられない子どもたちを生み出していることや水不足の一因になっていることまで想像が及んでませんでした。学校を作り、井戸を掘るのは対処療法であり、そのパートだけを私は見ていて、根本の原因と取り組んでいるそれらの国の機関や国連の機関、欧米の非営利団体の存在を見てませんでした。

 

PSIの活動を紹介する動画

 

 

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