人口抑制策とアダルト産業の密接な関係—心のナチスも心の大日本帝国も抑えろ[4](松沢呉一)-3,181文字-
「毎年9月28日は世界避妊デー—心のナチスも心の大日本帝国も抑えろ[3]」の続きです。
中国方式ではない人口抑制策
多くの国で避妊推奨のCMを流しているのは国家による強制力でそれを実施しているわけではないからです。
強権的な国家であれば、かつての中国のように一人っ子政策を実施することで解決できます。法で縛ればいいのだから、テレビ・コマーシャルなんてやらなくてもいい。中国では少数民族に対する断種が行われているとの話が以前から囁かれておりますが、一人あるいは二人子どもが生まれた夫婦は強制的にパイプカットを施せば人口対策は完璧です。
断種という話はともあれ、一人っ子政策によって中国ではすでに人口は抑制されていて、人口増加率0.48パーセント、231カ国中162位です。だから間もなくインドに抜かれます。
国連の人口抑制政策に対して、かつて中国などの国々は「人口は国力である」として反発する時代もありましたが、その時代はとっくに終わり、中国があれだけ発展できたのは、人口抑制に成功したことも一因になってましょう。
しかし、このような人口抑制策は絶大な効果があっても、決して歓迎すべきものではなくて、その負の影響も大きく、すでに一人っ子政策は撤廃されています。
それとはまた別に表現に対する規制が中国では厳しく、香港を除き、中国では2014年までコンドームの広告は禁じられていて、今もほとんどテレビでは流れていない。YooTubeや優酷で探した限りでは、HIV関連のCMは国外企業がわずかに制作しているのと、一部エリアで何本か作られているのを見つけたくらい。
あれだけコンドームがあちこちで販売されているにもかかわらず、コンドームの使用は夫婦間のものというのが国の方針のようです。それによって起きていることは「中国のHIVとセックスワークについての報告書」を参照のこと。宗教道徳の弱い中国でも政府が主導するとこうなってしまいます。
※DKT nternationalのサイトよりDKTがカバーしているエリアの地図。中国も入っているのですが、DKTも中国ではCMを流せないよう。
自己決定による人口抑制策
ナチスにならないように、また、中国にもならないように、今現在、多くの国がとっている対策は、国民が知識を得た上で、個人に判断させるという方法です。つまりは自己決定の促進です。政府がやるのはその情報の提供と、その選択ができるように環境を整備することです。
人口増加に悩む国だけじゃなく、あらゆる国でこれが適切な方法です。たしかにピルは体質や生活習慣によって副作用があって、発生率は少なくても死亡例があります。だから使用してはいけないのではなくて、死亡例のある風邪薬と同様に、それぞれの事情と体に合わせて選択肢のひとつとして使用できるようにすることが好ましい。自分には合わないと思えば他の方法を選べばいいし、感染症対策もしたいのであれば男用または女用コンドームを使用すればいい。政府はその判断ができるように教育をし、情報を提供すればいいのです。
実際に人口抑制策をとっている国で情報提供と環境整備を担っているのは政府機関だけではなく、国連の機関だったり、欧米の非営利団体だったりします。そういった国々の中には政府と敵対する人たちが住むエリアもありますから、民間団体の方がスムーズに行く。
また、テレビのCMもそういった団体が制作しているものが多くあります。政府が直接やるのではなく、制作費は出していても、国外の団体がやった方が政府としても反感を買わないという計算もあるでしょう(CMのロゴを見ると、アメリカ政府関連の資金や国連関連の資金が投下されていることが多く、その国の政府は一切金を出していないこともありそう)。
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