ヒトラーおじちゃんとローザちゃん—人間が悪魔化するとき[上]-(松沢呉一)
これは以前シリーズものの中で出していたのですが、解体して、ここから別シリーズが始まります。ちょっと手が加わってますが、ほとんど一緒ですので、読んだ方は次回からお読み下さい。
笑いころげるヒトラー
H・P・ブロイエル著『ナチ・ドイツ清潔な帝国』は売春についてだけでなく、私にとって必要な情報が多数出てました。
序章というのはそういうものですが、この本の粋といっていいエピソードが次々と出てきます。その前後は省略しますが、「総統は涙のでるほど笑いころげた」と書かれています。とくにそこに意味を持たせた表現ではなかったのですが、私は「ああ、やっぱり」と思いました。
ヒトラーが声を出して笑いころげている様子を撮った写真はほとんどない。これは写真に撮らせなかった、撮っても公開させなかっただけのようです。
以下はその例外的写真。
おそらく声を出して笑っているのでありましょう。
ヒトラーの恋人
また、子どもと一緒にいる写真や絵では穏やかな表情を見せています。私はてっきり子どもといる時の笑顔のポスターはゲッベルス的宣伝戦略に基づくものだと思っていたのですが、あの笑顔は素の笑顔のようです。
これはヒトラーの写真を多数撮っていたハインリヒ・ホフマン(Heinrich Hoffman)によるものです。絵葉書になった写真ですが、それ用に撮ったというよりも、おそらくヒトラーは子どもといる時には自然に笑顔になり、それをホフマンが撮影して、その中から外に出すものを選択していたようです。
この笑顔の人物がどうしてユダヤ人の子どもたちは殺せたのか。ヒトラーにとって、ゲルマン民族の子どもとユダヤの子どもは別の存在に見えていたのでしょうか。
しかし、この女の子はユダヤ系なのです。金髪と青い目がアーリア人の証ということになっていて、彼女は金髪のために気づきにくかったのでしょうけど、よその血が入っていればもはや純粋なアーリア人ではなく、汚れているというのがナチスの解釈。つまり彼女はこの世から消さなければならないはずの存在です。
以下は2018年11月14日付BBCニュース「ヒトラーはユダヤ系少女と仲良しだった……写真競売に」より
写真は、ヒトラー専属の写真家ハインリヒ・ホフマンが撮影したもの。米メリーランド州の競売業者アレクサンダー・ヒストリカル・オークションは、13日に始まった競売では1万ドル(約110万円)ほどの値がつくだろうと予測している。
「サイン入りのものが表に出てきたことはなかった」と、同社のビル・パナゴプロス氏は英紙デイリーメール電子版に話している。
「ヒトラーはプロパガンダ目的で、しょっちゅう子供と一緒に写真を撮った。しかし、この作品は衝撃的だ。ヒトラーは本心からこの女の子に、親近感を抱いていたようなので。愕然とした」
「ヒトラーの恋人」
ヒトラーと女の子は、誕生日が同じだった。それが出会いのきっかけだった。
競売サイトによると、ローザさんは1933年、母親のカロリーネさんと一緒に、アルプスにあったヒトラーの別荘ベルクホーフを訪れた。別荘の外には、ナチス総統の誕生日を祝う大勢が集まっていた。
ローザさんの誕生日が自分と同じだと知ったヒトラーは、ローザさんと母親を別荘に招き入れたとされている。写真はそのとき撮られたという。
それからまもなくして、カロリーネさんの母親がユダヤ人だったことが判明する。ナチスにとっては、ローザさんもユダヤ人ということになった。
しかしそれでも、ヒトラーは少女との友情を終わらせなかった。一緒に撮った写真は、サインをして送っている。
「親愛なる、そして(思いやりのある?)ローザ・ニナウへ、アドルフ・ヒトラー、ミュンヘン、1933年6月16日」と、ヒトラーは書いた。
ローザさんは後に、この白黒写真に自分で花を足しているようだ。
ローザさんは1935〜1938年の間に、少なくとも17回にわたりヒトラーと側近のヴィルヘルム・ブリュックナーに宛てて手紙を書いた。ヒトラーの個人秘書マルティン・ボルマンが、ローザさんと母親(ローザさんの父親は死亡していた)に連絡を控えるよう命令するまで続いた。
部下のこの命令を、ヒトラーは気に入らなかったようだと写真家のホフマンは後に書いた。
ホフマンは1955年に発表した回顧録「Hitler Was My Friend(ヒトラーは友達だった)」で、「私のあらゆる楽しみを台無しにするのが本当にうまい連中がいる」とヒトラーが自分にぼやいたのだと書いている。
ホフマンはさらに同書に、「ヒトラーの恋人」とキャプションをつけて、2人の別の写真を掲載。
(略)
(残り 1680文字/全文: 3713文字)
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