よその国の現実を知りたい—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[14]-(松沢呉一)
「「わいせつ表現規制を考える@高円寺パンディット」で考えたこと—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[13]」の続きです。
他国を手本にせずに参考にする
前回に続いて、うぐいすリボン主催「わいせつ表現規制を考える① そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?」で考えたことです。
パンディットに来場していた山口貴士弁護士から、ヨーロッパ基準を手本にすることへの慎重論が出てました。「こんな表現は欧米では許されない」といった稚拙な妄想のことではなくて、現実のヨーロッパ諸国を手本にすることで、現状の日本の「性器さえ出さなければいい」から「性器を出せても他の表現が規制される」ということになったら意味がないという指摘です。
とくに漫画表現のことを山口弁護士は言っていたのだと思いますが、SM表現についても、同じことが言い得ます。
たとえばイギリスでは、合意の上でなされるプレイとしてのSMの表現において、暴力を想起させる表現はNGのため、印刷物でも映像でも、流血、拘束、殴打、鞭打ちといった表現はできません。イギリスのイラストレーターや写真家は、そういった作品をフランスで発表するのだとイギリス人のイラストレーターから聞いたことがあります。とくにSMだけでなく、一般の映画やテレビでも暴力表現には厳しいのだと思われます。
そのため、イギリスではラバー・フェチ(ラテックス・フェチ)表現が発展したという経緯があります。もともとロンドンは雨がよく降るため、ラバーのコートが多く作られていた背景もあって、1980年代にラバー・フェチ雑誌「SKIN TWO」が創刊されています。うちにも何冊かあったはずですが、スタイリッシュなヴィジュアルを中心とした雑誌です。
これは拘束の延長と言えつつ、イギリスでも規制されない。そうするしかなかったということでありながら、独自の発展を遂げています。
第三者に向けて表現することができないだけで、プレイとして拘束や鞭打ちをやっている人たちは当然いるわけですが、ショーの類いでもそれらの行為はNGだったはず。小規模なものであれば気づかれない、あるいは見逃されるとして。
新潮文庫で書けることが、コンビニ取り扱いの雑誌では書けない?
かつて深夜時間帯のテレビ番組では、女王様が出てきて、芸人を縛ったり、鞭打ったりするような番組がありましたが、今はSMというだけでNGになっています。また、SM雑誌ではそう珍しくなかった注射針やメスを使用するようなプレイも、医療器具の使用が難しくなり、かつ、医療行為に抵触しかねないということでNGになってます。
以前は現行犯以外では捕まらないとされていたため、深夜や早朝にやっていた屋外での撮影も、写真が公然わいせつの証拠とされるため、ビルの屋上での撮影、路上や公園での撮影は相当に気をつけないとできなくなりました。裸になるわけではないSMの撮影でも同様です。公然わいせつにはならなくても、条例や軽犯罪になったりするかも。
また、エロ雑誌がNGになっても、コンビニはエロもある実話誌は引続き扱うのですが、SM表現はNGで、叩いているところだけじゃなく、鞭を持っている写真でもNGだと聞きました。文字表現がどうなのかまでは確かめてないですが、新潮文庫で書けることが、コンビニの雑誌では書けなくなっているかもしれない。
といったように、表現をする場の後退、表現内容の後退はありますが、性器を出さなければ流血、拘束、殴打、鞭打ちを成年雑誌に出すことは今も可能です。定期刊行のSM雑誌はほぼ潰えたわけですが。
では、イギリスを手本に性器を出せるようになることを目指すことで、これらの表現ができなくなってもいいのかどうかです。とくにSMでは、性器を出さなくても十全な表現が可能なのに対して、ビンタも鞭打ちも縛りも拘束も窒息(顔面騎乗など)もできないとなると、ほとんど何もできなくなります。
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