松沢呉一のビバノン・ライフ

20代で尻がイケる童貞マゾと60代でデビューした老マゾ—『マゾヒストたち』[無料記事編 14]-(松沢呉一)

女王様をやることで自由になる—『マゾヒストたち』[無料記事編 13]」の続きです。

 

名古屋なのにスカはNG(笑)

 

vivanon_sentenceROYAL BLUEオープニング・パーティの最終回です。

この会は見所が多かったのですが、M男で言うと、名古屋から来た2人が手慣れていて、盛り上げてくれてました。この2人はビデオの撮影で一緒になったことがある顔なじみだけに、すでにすっかり息が合ってました。

彼らはオールマイティで、「吊られたい人」「フィストファックができる人」と聞くと、全部に手を上げてました。欲張りとも言えます。とくに片方は尿道ワザが冴えていて、私のリクエストにも応えてくれました。

彼は「名古屋なのに、スカ(トロ)だけはダメです」と言っていて、笑いました。「名古屋なのに」の意味は『マゾヒストたち』参照。

金蹴りもダメだと言いながら、軽いキックを受けてました。よくできるなあ。ウンコを食う人より、金蹴りを耐える人の方が上ではなかろうか。マゾの場合、何が上で何が下かわからず、上の方が偉いのかどうかも難しく、そもそも比べるようなものでもないのですけどね。

彼らが爆走していたため、初めてこういう場に来たM男さんらは圧倒されていましたが、それぞれのやり方で楽しめばよいと思います。

下は20代から上は70代までいまして、20代の彼は童貞ですけど、SMのキャリアは5年になり、尻はかなりイケます。今時の若いM男はデビューが早く、その分、「セックスはもういらない」になってしまうのもいます。どっちもやってから比べてみてもいいと思いますが、多くの男はマゾになる体験をしないまま死んでいくのですから、セックスを知らずに死んでいくのもありでしょう。

※休憩時間中にケーキをいただくじいちゃん

 

 

脳血栓で倒れてもなお縛られる

 

vivanon_sentence70代はこの10年くらい夏樹さんを慕っている人で、存在は夏樹さんから聞いたことがあったかもしれない。

彼は遅咲きで、マゾデビューは60代です。若い頃から自分がマゾだと気づいていたのですが、実践するのが怖く、ただただ雑誌を読み続けていたんだそうです。「奇譚クラブ」とともに生きてきたのです。

「雑誌も家族に見つからないように隠して、読み終えると捨てて。当時は男が縛られるところは出ていないですから、女の人が縛られるところを見て、自分もそうして欲しいとずっと思ってました」

定年退職し、一人暮らしになって初めてこの世界に足を踏み入れます。そのデビューの相手が夏樹さんで、以来、夏樹さん一筋で、緊縛がもっとも好き。

この日も夏樹さんに縛ってもらって、その上から服を着て帰りました。

「自分で縛ろうとしても難しいんですよね。だから夏樹さんに縛っていただいた時はそのまま帰って自宅でも楽しみます。風呂に入る時は外しますけど、縛られている状態がずっと続くのがいいんです。今のシーズンは上にジャケットを着られるからいいんですけど、夏場は困ります。Tシャツだけだと透けますし、薄い服だと体が触れた時にわかるので、満員電車には乗れません」

彼は脳血栓で倒れたことがあります。すぐにそうとわかるほどではないですが、後遺症で呂律が回らなくなったと言ってました。それでもMは楽しめる。勃起する必要はないですし。マゾは一生もん。

10年前に、自分が本当にしたかったことができてよかったですが、同じことならもっと早くから目覚めていた方が、人生における楽しみの総量が多かったはずです。しかし、それにはリスクがあります。職場でも家でもバレたくない。『マゾヒストたち』で皆さん語っているように、昔はSMクラブで遊ぶには金がかかりましたから、それもためらう一因だったかもしれないですが、彼が40代から50代の頃には相当値段は下がっていたはずです。金とは別の抵抗感があったのです。

時間が長いパーティは無理でも、SMコースで60分コースに入るくらいなら、職場でも家でもバレずに楽しむことができるはずですし、出張の際に遊ぶんだったらまずバレない。実際にそうしている人たちがたくさんいます。

しかし、ファンタジーが肥大しているだけに、踏み込むことができないのです。すべてを投げ捨てて女王様のもとに走ってしまうかもしれないし、本物のサディストの女王様に首を絞められて燃えるゴミに出されてしまうかもしれない。実践がない分、想像は果てしなく肥大して、だからこそ楽しく、だからこそ怖い。マゾ特有の悩みです。

そうなってもいいとの決断ができるまでに40年以上かかったとも言えると同時に、彼を抑え込んできた仕事と家族がなくなったことが大きい。

残された人生、存分にマゾっていただきたい。

前回と今回を併せて読んでいただけると、この社会では男も女も抑圧されているってことがわかりましょう。南智子が言っていた通りです。女たちだけが抑圧されていて、「女は奴隷だ」と言いたがる人たちは、世の中の半分しか見ずに、百年前の男女関係のモデルが今も続いていると思い込んでます。なぜあれだけの数のSMクラブ、SMバー、 M性感といった店が成立しているのか、なぜ男より女の方が幸福であると自覚する率が高いのかを一度ジックリ考えた方がよろしいかと存じます。これはたんなる性癖の問題ではないのです。

あのパーティは解放された両者が自由になる場でありました。

※ジムに行っているそうで、体は40代とそう変わらない。あのバケツは重りを入れるためのものです。

 

なお、ロイヤル・ブルーについてはTwitterのアカウントをフォローのこと。

 

 

続きます

 

 

以下はテンプレです。

 

 

 

世界はマゾでできている—松沢呉一著『マゾヒストたち』(新潮文庫)発刊記念

マゾしか出ません!!

 

 

 

本年5月をもって休刊となった「スナイパーEVE」で連載していた「当世マゾヒスト列伝」が『マゾヒストたち』として新潮文庫に登場。

18人の選び抜かれたマゾ男の精鋭たちのインタビューとコラムで構成された希有なM男たちの肖像。
その発刊を記念して、マゾヒストたちの生の声を聞きます。

女王様がいてのM男ですが、女王様は出ません。
M男が主人公のイベントです。

 

【出演】
松沢呉一(生活マゾ)

【スペシャルゲストのマゾたち】
クニオ(露出・身体改造・性豪・包茎自慢の変態)
山田龍介(元キックボクサー・ヤプーズマーケット代表)
紅葉(盲目のピアニスト・マゾ)

予定していたゴン太さんは欠席となりました。その代わりに変態界の大物が急遽出演決定。『マゾヒストたち』には登場しない人物ですので、当日までお楽しみに。

※本イベントは16禁です。15歳以下の方はご遠慮ください。

 

 

【会場】

高円寺パンディット

☎︎090-2588-9905


 

【日時】

2019年11月17日(日)

開場/ 13:00
開演/ 13:30

2時間半程度を予定しています。

 

【参加料金】

<お得な本付き料金>

前売 ¥2,500  当日 ¥2,600

<本なし料金>

前売 ¥2,000 ¥当日 ¥2,500

※いずれもドリンク別です。

予約はパンディット(二種の予約は入口が別になってます)

またはFacebookのイベントページで「参加予定」をクリックするだけで予約扱いになります。当日、どちらかを選択のこと。

 

ゲストのプロフィール

 

クニオ 思春期から裏山でセックスを始め、十代でストリップ劇場の楽屋まで出入りするように。以来、全国のストリップ劇場を回り、同時にトルコ風呂にも行くようになった。自身がマゾという自覚はないが、性器に傷をつけて黴菌をつけて化膿させるのが好きで、SMショーにもMとして出演している。自身が身体改造マニアという自覚はないが、ピアスを体中に入れて銭湯に通っている。包茎が自慢で、包茎サークルのメンバーでもある。

山田龍介 ブロのキックボクサーだったが、マゾに目覚めて、名古屋の北川プロのビデオにデビューし、多数のビデオに出演。最多本数に出たマゾ男優かもしれない。結婚し、子どももいたが、家庭を捨てて、マゾとして生きることを決意して上京。浅野ナオミ女王様の奴隷として軟禁生活を送ったあと、監禁専門ビデオメーカー・ヤプーズマーケットの代表に。同社の出演者はヤプーと呼ばれ、経営者・制作者にしてヤプー0号として出演もしている。

紅葉(もみじ) 幼少期に事故で両眼を失明。盲学校に通いながら、ビンタをされたい願望が高まる。数学専攻で国立大学に進んだあと、ピアノの勉強のため、ポーランドに留学。帰国後、自身の欲望を抑えられず、単身、SMクラブに乗り込み、数学、ピアノに続いてマゾとしての実践を開始、V&Rの作品に出演してマゾ男優としてデビュー。本に掲載されたインタビューの段階では独身だったが、その後、結婚。当日はマゾの結婚生活についても聞けるはず。

 

 

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