松沢呉一のビバノン・ライフ

セックスを語れない社会の末路—『マゾヒストたち』[無料記事編 15]-(松沢呉一)

60代でマゾ・デビューした青山夏樹さんの奴隷—『マゾヒストたち』[無料記事編 14]」の続きです。

 

 

いろんなものに縛られ過ぎ

 

vivanon_sentenceここまで見てきたように、男も女もいろんなものに縛られています。男の場合は、仕事や家庭に縛られているため、女王様に縛られたくても踏み込めない。踏み込んだ人の多くは職場や家庭でそのことは言えない。ソープランドに行っていることは職場や友人に言っている人たちでも、SMクラブはなかなか言えない。

男がマゾであることを公言することより、女が女王様であることを公言することの方がまだしも楽で、実際に公言している人たちはたくさんいます。

M男はつらいよ、ってことなのですが、ヘテロ、ノーマル、ノンケと言われる人々でも、すべての性癖、すべての性行動を職場や家庭で言えている人は少ないでしょう。女も同じです。

とくに結婚していて、浮気をしている場合、夫や妻が公認していたり、黙認していたりする人たちもいますが、大多数は秘密です。社内で浮気している場合も、バレると問題になることがあるので、たいてい秘密です。

そこを秘密にするのはやむを得ないかと思うのですが、夫婦でハプバーに行ったり、スワッピングをしたりする選択もあるのだから、もうちょっと話し合えばいいのに。

男にせよ、女にせよ、肛門に指を入れてかき回して欲しいとか、乳首を強く咬んで欲しいとか、首を絞めて欲しいとか、一般に言えば些か特殊な性癖を持つ場合にも、パートナーに言えない人たちが多いことについては「そのくらい言えよ」と思います。

潔癖な人々もいますから、そういうことを言うと蔑視するのもいるのでしょうけど、「そんなんと結婚してんじゃねえよ」って話。結婚しちゃったもんはしゃあないので、こういう人たちは性風俗店の客になるか、働くか、出会い系で相手を探すしかなく、いよいよ言えない秘密が増えていきます。

※乳首を大きくしているところ

 

 

問題を語り合うこともできない夫婦は日本社会の象徴

 

vivanon_sentence性について語れない社会の問題は、「ビバノン」でもたびたび書いてきた通り。

こだま著『夫のちんぽが入らない』のような悲喜劇もその副産物であることは「共感できない夫婦—『夫のちんぽが入らない』における「ちんぽ」の考察 5」「セックスに向き合わない社会の中で—『夫のちんぽが入らない』における「ちんぽ」の考察 6」に書いた通り。

夫婦で問題に真摯に向き合い、語り合い、解決することさえできない。だったら友だちにでも相談すればよさそうですが、相談できる友だちもいない。

その結果、著者は出会い系に解決を求め、夫は性風俗店に解決を求めました。もちろん、そのことは互いに言えない。

これは日本社会の性のありようを見事に見せています。夫婦で解決しようともせず、それぞれが生活とはかけ離れたところで解決するしかないのです。

その背景にあるのはセックスフォビアです。刑法175条はセックスフォビアを増産しています。セックスを汚らわしいもの、語ってはいけないものとし、セックスに対する道徳を維持しています。

その意味で、1960年代末以降のヨーロッパにおけるポルノ解禁が性の解放、人間の解放を求めたものだったことは正しくて、それを今なおこの国では獲得できていないわけですよ。この話は「そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?」シリーズで引続きやっていくとして、せめてセックスについてもっと語った方がいいんでないかい。

だって、『マゾヒストたち』に出てくれた人たちは、あんなに堂々と語ってくれていて、「世界はマゾでできている」にまで登場してくれるんですよ。出演の3人は今回特別に語ってくれるのではなく、ふだんも隠していない。クニオさんはピアスだらけで銭湯に行っているし、紅葉さんは火傷痕や傷痕、落書きだらけの体で銭湯に行っていたし。マンコにチンコが入らないことくらい夫婦で語り合いましょう。

ところで、先日行った大田区の銭湯は入口に刺青NGの貼紙が出てました。組合加盟の銭湯では珍しい。20軒に1軒もないくらいでしょう。さて、女王様が書いた落書きは刺青なのかどうか。色が入っていると刺青のような気がしますが、色が入ってない「ブタ」「マゾ犬」といった文字はただの傷痕じゃないかな。紅葉さんの体には「666」と落書きされてますが、色が入ってなかったと思うので、銭湯もOK。

ということで、いよいよ明後日は「世界はマゾでできている」です。

その報告をやって、この無料記事シリーズは終了します。

 

以下はテンプレです。

 

 

世界はマゾでできている—松沢呉一著『マゾヒストたち』(新潮文庫)発刊記念

マゾしか出ません!!

 

 

 

本年5月をもって休刊となった「スナイパーEVE」で連載していた「当世マゾヒスト列伝」が『マゾヒストたち』として新潮文庫に登場。

18人の選び抜かれたマゾ男の精鋭たちのインタビューとコラムで構成された希有なM男たちの肖像。
その発刊を記念して、マゾヒストたちの生の声を聞きます。

女王様がいてのM男ですが、女王様は出ません。
M男が主人公のイベントです。

 

【出演】
松沢呉一(生活マゾ)

【スペシャルゲストのマゾたち】
クニオ(露出・身体改造・性豪・包茎自慢の変態)
山田龍介(元キックボクサー・ヤプーズマーケット代表)
紅葉(盲目のピアニスト・マゾ)

予定していたゴン太さんは欠席となりました。その代わりに変態界の大物が急遽出演決定。『マゾヒストたち』には登場しない人物ですので、当日までお楽しみに。

※本イベントは16禁です。15歳以下の方はご遠慮ください。

 

 

【会場】

高円寺パンディット

☎︎090-2588-9905


 

【日時】

2019年11月17日(日)

開場/ 13:00
開演/ 13:30

2時間半程度を予定しています。

 

【参加料金】

<お得な本付き料金>

前売 ¥2,500  当日 ¥2,600

<本なし料金>

前売 ¥2,000 ¥当日 ¥2,500

※いずれもドリンク別です。

予約はパンディット(二種の予約は入口が別になってます)

またはFacebookのイベントページで「参加予定」をクリックするだけで予約扱いになります。当日、どちらかを選択のこと。

 

ゲストのプロフィール

 

クニオ 思春期から裏山でセックスを始め、十代でストリップ劇場の楽屋まで出入りするように。以来、全国のストリップ劇場を回り、同時にトルコ風呂にも行くようになった。自身がマゾという自覚はないが、性器に傷をつけて黴菌をつけて化膿させるのが好きで、SMショーにもMとして出演している。自身が身体改造マニアという自覚はないが、ピアスを体中に入れて銭湯に通っている。包茎が自慢で、包茎サークルのメンバーでもある。

山田龍介 ブロのキックボクサーだったが、マゾに目覚めて、名古屋の北川プロのビデオにデビューし、多数のビデオに出演。最多本数に出たマゾ男優かもしれない。結婚し、子どももいたが、家庭を捨てて、マゾとして生きることを決意して上京。浅野ナオミ女王様の奴隷として軟禁生活を送ったあと、監禁専門ビデオメーカー・ヤプーズマーケットの代表に。同社の出演者はヤプーと呼ばれ、経営者・制作者にしてヤプー0号として出演もしている。

紅葉(もみじ) 幼少期に事故で両眼を失明。盲学校に通いながら、ビンタをされたい願望が高まる。数学専攻で国立大学に進んだあと、ピアノの勉強のため、ポーランドに留学。帰国後、自身の欲望を抑えられず、単身、SMクラブに乗り込み、数学、ピアノに続いてマゾとしての実践を開始、V&Rの作品に出演してマゾ男優としてデビュー。本に掲載されたインタビューの段階では独身だったが、その後、結婚。当日はマゾの結婚生活についても聞けるはず。

 

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ