松沢呉一のビバノン・ライフ

クンニやフェラは不潔だと思ったことはないか?—台風19号の被害でマゾになる[3]-(松沢呉一)

日常に潜む非日常の落とし穴—台風19号の被害でマゾになる[2]」の続きです。

 

 

予定調和を嫌うマゾたち

 

vivanon_sentenceここからやっとSMの話です。『マゾヒストたち』を読んだ方はおわかりのように、マゾたちはしばしば予定調和を嫌います。とくに山田龍介のインタビューをお読みいただきたい。やって欲しいことをお願いしてやってもらうと、すでに予定調和になっている。だから、はっきりと言葉には出さないながら相手に伝わるようにメッセージを出し、それをやられた時に、「なんでこんなことに」と愕然とするのがより強い快楽になります。

SMクラブの中には細かくオプションでプレイ内容が決まっている店があって、その方が安心な人がいる一方、それを嫌う人もいます。金を出せば確実にできるプレイでは面白味がない。それは仕事であって、女王様が心底やりたいプレイなのかどうかわからない。

わざわざ女王様になるからには、また、それなりの期間やるからには、多かれ少なかれ、女王様の中にはS性があったりはしても、その度合いには個人差があって、自身の快楽ではなく、お仕事でプレイをやっている意識の強い女王様もいないわけではなく、そうとわかっていても、本心からやっているのだと思いたいので、オプションは興醒めです。

本心からやりたくてやっていることの証明が予想の範囲を超えるプレイなのです。

理想を言えば、女王様の胸の皮膚が破れて、そこからパンチが出てきて欲しい。思ってもいなかった展開になって、それを耐える自分が好き。でも、実際にそんなことがあったら、ビックリして腰を抜かしますから、意外性にも適度な案配があります。今回の台風被害もそうです。適度な案配を超えてしまいました。

その適度な案配の意外性を求めるため、SMクラブよりもSMバーやハプバーを好むマゾたちもいます。何も起きなくてすごすごと帰っても、次はいいことがあると期待します。プロの女王様ではなく、素人さんにひどいことをされたい人たちはとくに予想できない意外性を求めている人が多そうです。

自分が嫌がっていることをやって欲しい。ここには逆転があって、イヤなことをされることが喜びです。この逆転がノンケさんにはわかりにくいかもしれないのですが、多くの人たちは体験しているはずなのです。

 

 

どうして汚い性器をなめられるのか

 

vivanon_sentenceたとえばオーラルセックスってムチャクチャ不潔じゃないですか。だから多くの場合、シャワーを浴びてからするわけですが、それにしてもシッコが出るところであり、湿度が高いので、雑菌が増えやすい場所です。

性風俗店では消毒成分の入った石鹸を使うことがありますが、それでも完全ではなく、とくに陰毛は一本一本洗わない限り、雑菌がこびりついています。陰毛は不潔として脱毛している人たちは衛生面から言えば正しい。ましてそんな石鹸を使わず、丁寧に洗いもしないでなめるのは、道に落ちているお菓子を拾い食いするより危険。

だから、現にSTDを筆頭にさまざまな病気に感染します。毛ジラミも棲息しています。チンカス、マンカスもついてます。そんなところをなめるんですよ。その時の人間は犬か猫の仲間です。だからといって、犬や猫のチンコはなめられないでしょう。人という条件があると、不潔という不快感を乗り越えられます。

ヘテロだったら同性の、同性愛者だったら異性の性器をなめることを想像していただきたい。私は洗ってあれば、かつそうしなければならない状況では、チンコもしゃぶれますけど、拒絶する人も多いはずです。性欲と直結するから乗り越えられます。

 

 

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