女に厳しく、同時に甘かったのはナチスの時代から—ジャパニーズ・サフラジェットとナチスと包茎と田嶋陽子[14]-(松沢呉一)
「ナチスの威光でいじめの報復をしたヘルタ・カスパロヴァ—ジャパニーズ・サフラジェットとナチスと包茎と田嶋陽子[13]」の続きです。
数字で確認する男女の起訴率と有罪率
ウェンディ・ロワー著『ヒトラーの娘たち』から数字を拾って、「とくに女に対してドイツの司法が甘かったとまでは言えない」ということを確認してみましょう。
戦後の裁判で裁かれ、有罪になったナチスドイツの戦争犯罪者は軽微なものを含めて6千名。当初の米国による200万人という見積もりの0.3%です。
東部占領地域に送り込まれたドイツ人女性は数十万人。ホロコーストのことを知っていた以上に直接、間接に関与したのは、おそらく数千。ウェンディ・ロワーがメドとして出している3千人として(少なくとも3千人といった書き方ですが)、その0.3%だと9名。女の看守と医療関係で有罪になったのはもっともっと多い。対して秘書や妻は追及された率が圧倒的に低いですが、その事情はここまで見てきた通りです。
適当な数字と適当な計算ですが、男女の起訴率、有罪率はそれほど大きくは変わらない印象です。西ドイツでの女の起訴や有罪判決が全体の数字に比して少ないのは事実ですが、役職で確定できる人が少ないため、逮捕、起訴、有罪の率が男より少なかったとしても、それほどおかしいとは思えません。
※「The Black Book of Poland」(1942)より
女に対して甘かったのではなく、男に対しても甘かった西ドイツ
西ドイツが戦争犯罪人に対して甘かったことは事実。繰り返しますが、「ドイツは自国の戦争責任に対して真摯に向き合って反省した」といった言説をそのまま鵜呑みにしない方が無難です。そう見える部分もありますが、そうとは言えない部分も多数あるのです。
男に対してもそうだったのですから、ことさら女に甘かったと言えるのかどうか。その可能性もありつつ、そうではない可能性もありそうです。
懲役の判決が出ていても、その半分から4分の1程度の期間で釈放されているのはどうなんかと思うのですが、これも男女問わずです(執行猶予つきがひとつも出てこないことから、制度として執行猶予が存在しなかったかもしれず、その分、懲役期間を短縮するという考え方だとしたら、とくに戦争犯罪人に限った措置ではなく、これもおかしくはない)。
西ドイツの司法が、ユダヤ人の証言を軽視したという話を何度かウェンディ・ロワーは書いていますが、これも男女問わずでしょう。
私がウェンディ・ロワーの見解に疑問を抱いたのは、ナチスの軍人、役人であっても、ナチスの党員であっても、その家族であっても、裁判は公正になされるべきという考え方が強いためかもしれず、「敗戦国の裁判はどうなされるべきか」という点において、ウェンディ・ロワーと私では違う考え方をしている可能性もありそうです。
ニュルンベルク裁判の記録は買ったまま、ナチス・シリーズを打ち切って、ナチス関連の本を読むのもやめたため、いまだよくわかってないので、これ以上踏み込むのはやめておきます。
※「The Black Book of Poland」(1942)より
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