松沢呉一のビバノン・ライフ

2020年3月6日の東京 —ウイルスとウイルス恐怖症に覆われる世界[1]-(松沢呉一)

「新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情」シリーズの続きですが、このユニットは長くなるので、別建てにしました。

 

 

M男はエムい

 

vivanon_sentence極力いつもと同じ生活をするように心掛けておりますが、どうやってもいつもと違う光景を目にしてしまって、イヤな気持ちになります。マスクをする大量の人々、マスクやトイレットペーパーが消えた店頭。いつもはやっているはずの店が閉まっていて、いつもは混んでいる店が空いています。

一昨日は墨田区の銭湯に行きました。スカイツリーの北側と東側は方向感覚が狂いやすくい。錦糸町からスカイツリーまでは道が東西南北に走っているのに対して、スカイツリーを越えると道が斜めになり、線路も斜めに走るためです。荒川と隅田川に挟まれたエリアで、川に沿って道が作られたためだと思います。

このご時世でありますから、マスクをしていない私が人に道を聞くのもためらわれて、そろそろ銭湯に行く時もスマホを持ち歩くかと思いつつ、この日も持っておらず、途中で自転車に乗った婦人警官2名がいたので、道を教えてもらいました。警官も最近はマスクをしています。

完全に方角を間違えていて、当初予定していた銭湯とは違う銭湯に向いました。

人気の少ない道を歩いていたら、私のすぐ後ろに、ゆっくり自転車を漕ぐ女子2名がいました。後ろですから、はっきりとはわからなかったのですが、中学生か高校生じゃなかろうか。

聞き間違いじゃなければ彼女たちはM男の話をしてました。こんな時でもM男の話をするのは感心です。

「M男はエムい」

そう片方が言い、もう片方が意味を聞いていたのですが、私はここで道の反対側に渡ってしまったので、説明は聞けず。「エグい」にひっかけたのか、「エモい」にひっかけたのか、そのまんま「M男はマゾ」という意味だったのか、どれなんだろうとそのあとずっと考えてしまいました。

夜の10時頃です。学校の一斉休校で、こんな時間まで遊んでいるのも感心です。今までどこかで勉強でもしていたのかもしれないですが、遊んでいたのだとしても責められない。そりゃ遊ぶに決まってますよ。

いつもより長い春休みになったので、その間に勉強するのもよし、読もうと思っていて読めていない本を読むもよし。で、マゾヒストたちを読んだのかなとも思いました。そうだとしたら、いよいよ感心です。

※新宿の歩行者天国も人が少ない。

 

 

銭湯で平沢進を歌う私

 

vivanon_sentence銭湯に着きました。ここは露天ではない別室風呂があります。私は誰もいない別室風呂で鼻歌を歌っていて、それが平沢進の曲だったことに気づいて自分で驚きました。銭湯で平沢進を歌う人は相当に珍しい。

この曲のサビです。

 

 

 

咲け輪廻のOH」のOHの部分を正確に歌うのは難しいのですが、鼻歌ですからそこは適当に。

この曲に限らず、平沢進の世界には、破壊あり、混乱あり、孤立あり、諦観ありですけど、その先にあるのは救済であり、治癒であり、再生であり、未来です。今の気分にピッタリ。私自身、どうやってもこの空気を意識してしまっているのだなあと思いました。

客は5、6人いたかな。銭湯によって、また、時間によって客の入り具合は違うので、これが多いか少ないかわからず、どれだけ銭湯を回っていても、新型肺炎による銭湯の影響は不明です。

銭湯でさえ客が減っているような気もするし、遠くに行くのやめて近所の銭湯にでも行くかという人たちもいるので、変わらないような気もするし。

 

 

銭湯の客も気持ち減っている

 

vivanon_sentence帰りに受付で聞いたら、「お客さんは気持ち減っているように思います」とのことでした。毎日の人が2日に1回になったり、仕事のあとで銭湯に立ち寄る習慣のある人がしばらく我慢したり、いろんなところの銭湯を回るのを趣味にしている人が控えたりしているのでしょう。

 

 

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