スペイン風邪がもたらした排外主義とCOVID-19がもたらす排外主義—ナチスの時代とコロナの時代[7]-(松沢呉一)
「ナチスの台頭を促進したスペイン風邪—ナチスの時代とコロナの時代[6]」の続きです。
スペイン風邪からナチスへ
ウイルスは外からやってくるイメージです。事実、個人にとってウイルスはつねに外からやってきます。武漢は別にして、すべての地域で、COVID-19は外からやってきました。
そのため、移動する人々がウイルスを持ち込むと見なされやすい。ジプシーしかり、移民しかり、旅行者しかり。現実に誰かが持ち込むわけですけど、持ち込んだかどうかは問わずして、異民族、外国人は排除される。
スペイン風邪では戦争に伴う人の移動がウイルスを拡散したのですが、「戦争は正当」であるのに対して、定住しない人々は不当。
ユダヤを嫌うことはそのはるか前からなされてきたことであり、もともとあったユダヤ人に対する不信感、嫌悪感、嫉妬心といったものに、スペイン風邪が拍車をかけて、そこに乗っかったのがナチスだったという流れです。
もうひとつ重要なことは、ナチスを求めたドイツ国民がそうであったように、不安になった人々は強い者を欲するということです。強い政治家による強い政府の強い政策を求める。強い国家が伴わなければ、それまで起きていたような小規模なボグロムで終わり、ホロコーストにまでは至りませんでした。
人は自分の責任を見るよりも、誰かに責任を押しつけたい。戦争に負けたのも、生活が苦しいのも、ロシアで革命が起きたのも、ナチス政権がすべてユダヤのせいにすることでドイツ国民の不安はクリアとなり、楽になりました。
ヒトラーは戦術としてそれを選択したばかりでなく、自身がそういう発想をする人でした。自分が画家になれず、冷遇されたのはウィーンのせいとして恨み、ナチスドイツが戦争に負けたのはドイツ国民のせいとして、最後はドイツ国民をも殲滅しようとしました。
この被害者意識の強さがヒトラーの特性であり、それを受け入れたドイツの人の特性です。
※WikipediaよりSoldiers from Fort Riley, Kansas, ill with Spanish flu at a hospital ward at Camp Funston よく使われている写真。カンザス州にあった米陸軍基地内の病院
異物排除が各地で展開されている
前回見たニューヨーク連邦準備銀行による調査「Pandemics Change Cities」は、COVID-19で何が起きるのかを見据えた調査です。
ペストの時代ならともあれ、ナチスの時代から数十年しか経っていないのですから、今回もウイルスへの恐怖から、異物を排除する傾向が世界中で見られました。中国人はもちろんのこと、韓国人や日本人が排除の対象になりました。中国ではアフリカ系移民が排除されました。
2020年4月8日「supchina」
広州には中国最大のアフリカ系住民のコミュニティがあり、彼らがバッシングを浴びてアパートやホテルから追い出されて居場所をなくしていると報じられていて、その経緯や背景についてもこの記事で説明されています。
直接にはCOVID-19が契機ですが、それ以前からあったアフリカ系の人々に対する嫌悪や蔑視がこの機会に吹き出したようです。デマを拡散し、憎悪を増幅したのはやはりSNSで、政府批判は直ちに削除するのに、こういうデマは放置する中国政府です。
もっともウイルスに感染しやすい層が憎悪される
移民排除の姿勢を明らかにしているハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相は移民を「毒」としています。COVID-19によってこの姿勢が強まり、それでも国民は支持しそうですし、他の国でもこの傾向が強まりそうです。
いくつかの国では、移民や外国人労働者が感染を拡大した事実があります。事実があれば尾ひれがつきやすい。
スウェーデンでは老人介護施設や自宅で介護を受けていた老人たちが多数感染して亡くなっているのですが、介護の仕事は移民に依存していて、彼らからの感染とされています。
「ハンガリーに見る全体主義・民族主義の高まりとウイルス利用—ナチスの時代とコロナの時代[5]」で最後に取り上げたハンガリーのVálasz Onlineのサイトを見ていたら、スウェーデンの話が出ていて、この中にその話が書かれています。
A svédeknek volt igazuk? Korántsem. A lecsengő járvány első tanulsága
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