松沢呉一のビバノン・ライフ

現状ネオナチが力を持つ心配はなさそうなドイツの政治体制—マスク・ファシズム[13]-(松沢呉一)

ドイツでのマスク着用義務はロックダウンをゆるめるタイミングで実施された—マスク・ファシズム[12]」の続きです。

 

 

ドイツでネオナチが増えていることの脅威

 

vivanon_sentenceドイツの事情を調べていくと不安になるわけですよ。敗戦後あらゆる手段でナチス復活を阻止してきたドイツで、ここ数年、ナチスを継承しているとしか思えないAfDが支持を集めています。

昨年6月にはハッセン(Hessen)州の州議会議員ウォルター・リュブケ(Walter Lübcke)がAfD支持者のネオナチに射殺されています。次々と右翼による暗殺が起きたヴァイマル共和国時代が再現されるのではないかと怖くなります。

いくら変えようとしたって、国民性みたいなものはそう簡単には変わらず、ナチスを生み出したドイツ国民の気質は今も残っているはずです。ナチスを生み出した第一次世界大戦での敗戦、スペイン風邪、世界恐慌といった社会不安が、今の時代に出揃ったら、またドイツ国民は同じ道を辿るのではないか。敗戦とそれに伴う賠償金はないとしても、ウイルスが登場し、このあと経済的停滞を避けられないのであれば、AfD支持が増えかねない。

ここに危機感を抱くのは、私がドイツのことを知らず、たまたま昨年ナチスの本を集中的に読んだために過敏になっているだけかもしれないと私も思わないではない。

しかし、ドイツでも私と同じナチス再現の危機感を抱いている人たちが多数います。「私と同じ」と言っては不遜です。私の比較じゃなく強い危機感を抱いている人たちがいるのです。

ここ数年AfDにからめた記事が多数出ています。

 

2019年10月10日付「das Erste

 

 

この記事は、ナチスの弁護士であり、ポーランド総督となり、絶滅収容所の総責任者としてニュルンベルク裁判で死刑判決を受けて処刑されたハンス・フランク(Hans Frank)の息子であるニクラス・フランク(Niklas Frank)がその危機感を語ったものです。彼は父について徹底的に調べ、それを本にまとめています。その忌まわしい父の考えがAfDによって戻ってきたと言ってます。

親の名誉を守るためにネオナチになるのもいた中、こういう人もいるんだあ。

こういう記事は多数見つかるのですが、COVID-19の騒動がナチス復活、AfDの勢力拡大につながりかねないと危惧する記事は決して多くはない。今年になってからでもナチスの記事は出てますし、AfD批判も出てますが、これは今まで通りの内容で、COVID-19とからめているわけではありません(これは検索の際にニュースに絞っているからでもあります。個人のブログになるともっと増えるとは思います)。

 

 

ナチス復活を心配しない理由

 

vivanon_sentence前に取り上げたニューヨーク連邦準備銀行によるPandemics Change Cities: Municipal Spending and Voter Extremism in Germany, 1918-1933」は当然取り上げられていますが、批判的なものもあります。内容が細かいので、自動翻訳では正確には読み取れないですが、あの調査は他の変数を考慮していないって指摘です。

私がうっすら受け取った印象からわかりやすい例を出すと、もともと右派が強い町では、欧州大戦での志願兵が多く出ます。戦地では感染する率、死亡する率が高く、当然戦死もします。結果、その町全体の死亡率も上がります。右派が強いのでナチス支持は当然増えるだけで、インフルエンザによる不安や恐怖とは関係がなく説明が可能。あくまで例であって、そんなシンプルな指摘ではないですけど(そんなシンプルな指摘ではないかどうかもわかってない)、ざっくりそんな話。

元の調査自体、私は十分に理解していないので、これについてはペンディングにするとして、これがどうあれ経済の停滞はナチス支持を増やしたのだから、COVID-19によってドイツ人はナチス復活を怖れていいはずです。

また、COVID-19によって世界的に国家主義、排外主義、民族主義、保守主義などが伸びることも指摘されています。これについては私もいくつも例を出しているように、すでに起きていることですし、ヨーロッパでも兆しが出ていますから、否定しようがない。そのため、EUが崩壊するのではないかとの危惧も出ています。

では、COVID-19によってナチス復活を危惧する記事はなぜ少ないのか。

 

 

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