松沢呉一のビバノン・ライフ

社会衛生運動と優生思想—矯風会がフェミニズムに見える人たちへ[大政翼賛編 4]-(松沢呉一)

山高(金子)しげりの提案から始まった女子挺身隊はフェミニズムか?—矯風会がフェミニズムに見える人たちへ[大政翼賛編 3]」の続きです。

 

 

 

優生保護法を作った人々

 

vivanon_sentence昨日の報道。

 

 

2020年7月1 日付「東京新聞

 

損害賠償請求権が消滅しているという判決なので、どう考えるべきか判断がつかないところがありますが、ともあれ、この手術はひどい話です。

優生保護法による不妊手術はハンセン病患者に対するものが知られています。遺伝性の疾患や障害を持つ人が対象ですが、実際に不妊手術を施された2万人以上の人の中には、この原告のように素行不良も含まれます。素行不良を招く性質が遺伝するという考え方です。

1948年(昭和23年)、優生保護法は全会一致で国会を通っています。この法は中絶の合法化という目的があったため、不妊手術については見逃されたということもあるのでしょうが、その部分は昭和16年(1941年)に制定された「国民優生法」が先に実施していて、そのまま引き継いだために改めては検討されなかったのではないかとも想像します。

優生保護法成立に尽力したのは日本進歩党谷口弥三郎・参議院議員で、全会一致で可決しているのですが、この前に日本社会党の加藤シヅエ太田典礼らによる法案が提出されております。加藤シヅエ、太田典礼は戦前の産児制限運動に関わった社会主義者たちで、この勢力のドンとも言えるのが安部磯雄・早大教授であり、戦後、日本社会党結党に関わっています。

安部磯雄の優生思想に基づく人種改良という考えについては「母性保護論争とエレン・ケイ—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 8」を参照のこと。

前から言っているように、20世紀の前半、あまりに優生思想は幅広く浸透して支持されていて、ナチス特有の考え方ではなく、社会主義者でもこれを支持する人たちが多数いました。平塚らいてうも優生思想の支持者であり、新婦人協会が劣種禁婚法を求めた花柳病男子の結婚に関する請願書」の背景に優生思想があります。

この辺まで説明し始めると話が広がって、矯風会から離れるため、別途付録としてまとめるとして、ここでは矯風会と優生思想について見ていきます。

 

 

社会衛生運動と矯風会

 

vivanon_sentence国民優生法では、優生手術と称される不妊手術の対象は遺伝性疾患、遺伝性精神病など、遺伝性の強いものに限定されていました。劣性の性質が国民や民族全体に影響するという優生思想に基づきますから、遺伝する性質じゃなければ手術する意味がない。

そのはずなのですが、それこそ素行不良、犯罪者、薬物やアルコール中毒も対象になったようです。ん? アルコール中毒? これは酒が民族、国民全体を劣化させるとする禁酒運動の発想そのものではないですか。

矯風会が国民優生法制定に関与したのかどうかわからないですが、おそらく矯風会はこの法律に賛同したでしょう。

 

 

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