松沢呉一のビバノン・ライフ

ホストクラブ経営者が想像していた以上にこの社会はゲスかった—ベルギーで異常に多い死亡者が出た理由[6](最終回)-(松沢呉一)

通所介護施設の対策を急ぐべし—ベルギーで異常に多い死亡者が出た理由[5]」の続きです。

 

 

 

やるべきことは見えている

 

vivanon_sentenceベルギーの数字をきっかけに、改めて介護施設、とくに通所介護施設の現状を調べてみて、「今この国がやるべきこと」がどこにあるのかはっきりわかりました。

老人および病人対策として、病院や介護施設に世話にならず、自宅で過ごしている人たちの対策をどうするかについては、個人の、あるいは家族の判断になって行政が介入しにくいところです。それより確実に効果があって、改善し得るのは介護施設対策です。

いまだに連日3桁の死者が出続けている国では、この対策ができていない。死者がゼロに近い国では、感染が抑えられているか、「死にやすい層」の対策がうまくいっているかです。

日本も感染者がまた増えているのに、死亡者がゼロの日が多いことから私は誤解してました。死者数は減っていたのは、3月から5月くらいまで休んでいた通所施設が多く、再開しても、利用者が外出を控えるために利用しなくなっていて、混雑が避けられていたのが大きく、利用者が増えるに従って感染が増えているところです。

このままだと、死亡者が確実に出ます。だったら対策すべきでしょう。

※2020年7月16日付「The Local」 3月以来初めてストックホルムの入院患者が100名を切ったことを報じるスウェーデン版「The Local」。なお感染者は出続けていますが、重症者が減少している、つまりは老人層への感染が少なくなってきていることを示しています。そこに失敗があったことを政府も認めているくらいで、おおむね対策は完了しているのだろうと思います。「スウェーデンは順調」という記事がスウェーデン国内では主流で、完全に安定期に入りました。

 

 

手塚マキ氏の理念

 

vivanon_sentence新宿区繁華街新型コロナ対策連絡会のメンバーである手塚マキ氏の噂はかねがね聞いていて、「にんげんレストラン」を仕掛けたのも彼です。プロデュースはChim↑Pomですが、彼はオーガナイザー的なスタンスだったはず。もともとあの物件は彼の会社が借りていたものです。彼の妻がChim↑Pomエリイです。

彼がForbes JAPANに書いた以下の2本の原稿をお読みいただきたい。目先にとらわれない彼の視点がよく出ています。

 

 

 

 

頭が単純な人は、「性風俗や接待営業の飲み屋は営業するな」と言いたがりますが、実際に休業していた店の風俗嬢たちはどうしたのか。貯蓄のある風俗嬢は静かにしていましたし、今なお休んでいるのもいますが、そうではない風俗嬢たちは馴染み客に連絡をとって個人営業で日銭を稼ぐ。個人営業をするホストから連絡があれば出かけていく。結局、店が見えないところで感染が広がってしまうだけです。

そういう行動をとった人たちがいざ体調を崩すと慌てて保健所や病院に問い合わせる。家で待機しろと言われていたのにそうしなかったがために、店には言えなくなる。若い健康体であれば死ぬことはまずなく(死ぬのがいても10万人に1人くらい)、検査したところで治療法も治療薬もないのだから、人に感染させないように家で静養して治せばいいのに、メディアでは若い健康な世代でもバタバタ死ぬかのようなデマ記事を流しているので不安になってしまうのです。

彼の店では、生活保証をしてもそうなってしまったのですから、だったら営業を続けて対策をとり、目が届くようにした方がまだよかったかもしれない。ただ、どこの店も彼のような理念をもっているわけではないですから、対策もとらずに営業する店も出てきてしまうのが難しいところです。

若い世代は感染したって死なないですから、介護施設対策を万全にした上で、そういう店を含めてほっときゃいいと思いますけどね。

ここで必要なのは道徳的に正しいことではありません。そういったホストや風俗嬢を道徳的に叩いてもなんの解決にもならない。必要なのは「どこを対策の重点にして、どうやって死者を出さないか」です。

 

 

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