松沢呉一のビバノン・ライフ

遺伝子がすべてを決していると考える頭の悪さは遺伝か?—RADWIMPS野田洋次郎の優生思想[3]-(松沢呉一)

両者の合意で結婚ができるようになったことの素晴らしさ—RADWIMPS野田洋次郎の優生思想[2]」の続きです。

 

 

遺伝子がすべてを決定しているはずがない

 

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東大学生の親を調べると、東大出身が有意に多いでしょう。医大・医学部学生の親を調べると、医師が有意に多いでしょう。これは「頭の良さは遺伝する」という説明で事足りると考える人は頭が悪い。

これらについては数字を見たことがないですが、東大生の親は平均よりずっと収入が多いことはデータがあります。

知能は遺伝する面がありますが、それと同時に、あるいはそれ以上に環境が決定し、その環境のもとで本人が決定しています。金の余裕がなければ、子どもを塾にやり、家庭教師をつけ、私立の小学校に入れることはできませんから。

であるなら、能力の高い人間を多く生み出す社会にするには、遺伝子で選別するのではなく、教育の充足と、教育の無償化をする方がずっと合理的なのです。事実、多くの国がその方向で進んでいます。

これについてはユダヤ系ドイツ人であり、星一が援助していたフリッツ・ハーバーが「ドイツ人はなぜ優秀か」について講演した内容が大いに参照になりましょう。当時、世界でもっともノーベル賞を受賞していたのはドイツ人でした。それはドイツ人が優秀なのではなくて、ドイツの教育制度が優秀なのだというのがフリッツ・ハーバーの一貫した考えです。

フリッツ・ハーバーはそこまでしか言ってないですが、ノーベル賞受賞者にはユダヤ人が多く、これはユダヤ人が優秀だったからではなく、生き延びるために教育が必要だと考え、子どもらが教育を受けられるように親たちが苦心していたからです。

ナチスドイツはその蓄積を無にして、多くの科学者、文学者、芸術家たちを失いました。優生思想にかぶれて、遺伝子がすべてを決するとの考えたのが間違いです。

※「PRESIDENT On line」掲載・舞田敏彦「「東大生の親」は我が子だけに富を“密輸”する」より、東大生の家庭と40代〜50代の家庭とを比較したグラフ

 

 

政治家の遺伝子なんて存在するのか?

 

vivanon_sentence2世3世の政治家が多いのも同じ。小さい頃から政治に関心を持ちやすく、親の票田を受け継げるので有利です。これは遺伝子と無関係であることは明らかでしょう。政治家になることを遺伝が決定しているんだったら、各国で政治家の男女比がああも違うことは考えにくい。

遺伝子に期待するのでなく、女でも政治家になろうとする環境を整えた方がいいってことです。これを実現するのも教育なのだと繰り返してきた通りです。その手間を省いてクオータ制で数字合わせをすればいいのだと考える人たちは、その安易さにおいて優生思想にかぶれる人たちと重なります。

 

 

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